鬼舞辻の生い立ちと、産屋敷家に伝わる話を総合すると、鬼舞辻も含む産屋敷一族は、高貴で豊かな家柄にもかかわらず、「病苦」と「死」に苦しめられてきたことがわかる。生まれながらに病弱な鬼舞辻が「力強い生命力」を望んだことと、鬼誕生の罪を背負って短命になってしまった産屋敷一族が「鬼の呪いからの脱却」を望むことは、コインの裏表だったのだ。
『鬼滅の刃』には、神も仏もあらわれない。人間の苦難を救済する絶対的存在はおらず、人間を苦しめるものは、鬼だけでなく、悪しき人間や、悪しき社会など、うんざりするほどに多く存在している。鬼舞辻が、自分の運命を呪い、自分が生き残るために他者を利用することは、彼なりの必然だったのかもしれない。
しかし、鬼舞辻の人生における「最初の失敗と罪」は、彼を治療していた善良な医師を、治療が完了する前に殺害してしまったことにある。医師を信じなかったこと、彼の短慮、彼の身勝手さが、結局自分自身を鬼へ変貌させてしまう「呪い」となってしまった。
■産屋敷と鬼舞辻を取り巻く「呪い」
耀哉は、「数日で死ぬ」と医師に告知された後も、鬼舞辻を倒すという強靭な意思を持って、鬼舞辻に対面するまで生き続けた。彼の鬼舞辻への怒りと恨みは、鬼殺隊の誰よりも深く、長く、最後には自分の妻子をも巻き込んで、自ら復讐への布石となる。
<私は思い違いをしていた 産屋敷という男を 人間に当てる物差しで測っていたが あの男は完全に常軌を逸している><自分自身を囮に使ったのだ あの腹黒は 私への怒りと憎しみが蝮のように 真っ黒な腹の中で蜷局を巻いていた>(鬼舞辻無惨/16巻・138話「急転」)
結局、産屋敷も鬼舞辻も、彼らの中に流れる「血」の呪いに縛られている。鬼舞辻は己の弱い体を、産屋敷は鬼舞辻と同族であるがゆえに発動される「短命」の呪いを。鬼舞辻の生き方は身勝手極まりなく、自分の力を分け与えた「鬼」たちですら、自分のためだけに利用した。彼が滅びゆく運命なのは、避けようがない。しかし、鬼舞辻は、耀哉と対峙した際には、自分が彼を「憎んでいない」ことを自覚する、奇妙な感覚にとらわれている。