一方、耀哉は、会ったことすらない鬼舞辻を恨み続けた。「仏のような笑みをはりつけたまま」、数多くの鬼殺隊の「子どもたち」の死を見送り、妻子たちをともなって自死してしまった。
産屋敷耀哉がいなければ、鬼殺隊の隊士たちが命をかけなければ、人喰いの鬼たちが、永遠に人に危害を加えていたことは間違いない。産屋敷家の一族を呪いから解き放ち、生き残った人たちを守るために、耀哉は自らの命をかけた。そして、彼が「鬼」に対して抱き続けていた「憎しみ」という名の「呪い」から、耀哉自身が解放されるためにも、彼は死を選んだ。
絶対だったのは、産屋敷耀哉は鬼舞辻無惨と共に死ぬこと。彼らにかけられていた「呪い」は、彼らの死によってはじめて完結したのだった。
◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。