フライヤーでは3週間に1回、大学の教員なども交えて選書の会議を開く。要約の特性上、文芸書やマンガは扱わない。要約の作業に携わるのは新聞記者やビジネス書を手がけるライターなど50人。仕上げた要約は、出版社や著者の確認も取り、クオリティーを担保する。会員は無料と有料があるが、フルサービスが受けられる月額2千円のゴールド会員は、ストックされている約2千冊に加え、毎日更新される要約を読んだり、聞いたりできる。

読書の幅を広げる

 会員の9割以上が法人契約という要約サービス「セレンディップ」は、国内未発売の海外の本の要約も配信する。この3年ほど企業のニーズが急速に伸びている理由を、運営する情報工場取締役の冨岡桂子さん(48)は次のように説明する。

「インターネットの発展により、欲しい情報に短時間で到達できるようになりましたが、一方で、情報が自分好みに偏る“フィルターバブル”がいま問題になっています。多くの日本企業がイノベーションを課題とするなか、思いがけない視点や情報との出合いが重要になっています。それをサポートするのが要約サービスで、“新たな気づき”を創出する選書が肝になります」

 一方、要約が広まると「本が読まれなくならないか」懸念される。だが、出版取次大手の日本出版販売マーケティング部の加藤隼士さん(32)は「むしろ逆だ」と言う。

 日販では昨年10月からフライヤーと組み、全国360の書店でビジネス書のフェアを展開。本のPOPのQRコードをスマホで読み取ると要約が読める「非接触の立ち読み」も導入した。

「本の内容がよくわかると好評で、対象書籍の売り上げは実施後2割増です」(加藤さん)

 セレンディップも契約企業から、要約で紹介した本の大量購入を依頼されることが多かったため、トーハンと業務提携した。

「本への興味を引き出す要約サービスは、読者と著者と書店をつなぐものとして、今後ますます浸透していくだろうと思います」(同)

(編集部・石田かおる)

AERA 2021年2月22日号

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