一人暮らしの部屋は、誰にも邪魔されない自分ひとりの自由な空間。しかし倒れてしまったときは救いの手が届かない(撮影/篠塚ようこ)
一人暮らしの部屋は、誰にも邪魔されない自分ひとりの自由な空間。しかし倒れてしまったときは救いの手が届かない(撮影/篠塚ようこ)
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互いに関心を払うことが少ない昨今、洗濯物が出しっぱなしでも、新聞や郵便物がたまっていても声をかける人は少ない(撮影/篠塚ようこ)
互いに関心を払うことが少ない昨今、洗濯物が出しっぱなしでも、新聞や郵便物がたまっていても声をかける人は少ない(撮影/篠塚ようこ)
何とか外に出れば誰かが見つけてくれる可能性が高くなる。部屋から玄関までのわずか数歩の距離が運命を分けることも(撮影/篠塚ようこ)
何とか外に出れば誰かが見つけてくれる可能性が高くなる。部屋から玄関までのわずか数歩の距離が運命を分けることも(撮影/篠塚ようこ)

 一人で自由な生活を楽しむ「おひとりさま」。健康なら問題はないが、つらいのは病気になったとき。特に心配なのが「脳卒中」だ。「一人であること」の深き悩みを減らす手立てとは。

 脳卒中は脳動脈の障害の総称で、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、脳を保護するくも膜と脳の間に出血する「くも膜下出血」の三つがある。あわせて年間30万人が新たに発症し、がん、心疾患、肺炎に続く日本人の死亡原因の第4位、高齢者が寝たきりになる原因疾患のトップだ。

「一人でいる時に経験したことのない症状を感じたら、躊躇せずに救急車を呼んでほしい」

 新都心たざわクリニック院長で脳神経外科医の田澤俊明医師は、そうアドバイスする。

「いきなり意識を失うことは少なく、ほとんどの場合、具合が悪いながらも何とか行動できる時間が多少はあるものです。その間にまず119番、次に家族、親戚、同僚などに連絡して状況を伝えてください。あとは救急隊が入って来られるよう、玄関のかぎを開け、麻痺のあるほうを上にして横向きに寝て待つ。こうすれば麻痺のないほうの手足を使ってある程度動けますし、吐いたものをのどに詰まらせる危険も少なくなります」

 しかし自分で救急車を呼べなかったケースもある。2年前にくも膜下出血の発作を起こした高橋一典さん(仮名・48)は10年前に離婚して以来、千葉県内のマンションに一人で暮らす。1月半ばの明け方、トイレに起きた直後に突然、足に力が入らなくなり、激しい頭痛に襲われた。これはおかしい。

 すぐ119番に連絡しようとしたが、家に固定電話はなく、あるのは買い替えたばかりのスマートフォンだけ。しかも視界がぶれて画面がよく見えず、手は震え、何度押しても押し間違えるばかり。そうこうするうち、電池が切れてしまった。

 電話をあきらめ、体を引きずりながら外へ。必死の思いで隣の部屋のドアをたたいた。それから数日後に病院で目覚めるまでの記憶はほとんどない。隣人は高橋さんの存在に気づかず、発作から約1時間後、出勤のためたまたま通りかかった女性が救急車を呼んでくれたと、後から知った。田澤医師はこう話す。

「電話できない場合、人がいるところに出て助けを求めるのは正しい判断です。ただし症状が出ている時に歩くと出血がひどくなり、脳の障害を広げる恐れがある。できるだけ最短距離で助けを求めてください」

AERA 2013年4月22日号