「独吐」でのライブ。「人に何か伝えたぞっていう瞬間がずっと好きなんです。お笑いはレスポンスが瞬間的にわかる。ユーチューブもそう。伝わったかどうか実感が持ちやすい。伝わらないときは、もどかしさもありますけど」
「独吐」でのライブ。「人に何か伝えたぞっていう瞬間がずっと好きなんです。お笑いはレスポンスが瞬間的にわかる。ユーチューブもそう。伝わったかどうか実感が持ちやすい。伝わらないときは、もどかしさもありますけど」

 その後、この一連の炎上事件をテーマに、ABEMAでひろゆきが出演する番組に呼ばれた。榎森は事前に話をしたいことをA4の紙約20枚にまとめ、リモートでの出演にのぞんだが、思ったことはろくに話せなかった。

 番組出演のあとに動画で「ひとり反省会」を開いた。ひろゆきの土俵に乗ってはいけないと分かっていたにもかかわらず、すぐに乗ってしまい、議論は案の定かみ合わず、激しい悔いが残っていることを吐露した。

 東京でのライブでも、その「経験」を爆笑に変えながら、こう聴衆に語りかけた。

「ひろゆきさんのああいう嘲笑や冷笑に『いいね』が23万以上もつくことがこわいんですよね。でも、あの人の人格がはっきりしたことがよかったと思うんですよ」

■政治だけを語るのではない もっとギリギリを見極める

 榎森とともにABEMAの番組にリモート出演した沖縄タイムスの記者・阿部岳(48)は、榎森らと綿密な打ち合わせをしてのぞんだが、やはり作戦は予定通りに運ばなかったと振り返った。それでも榎森の活動には期待を寄せる。

「エモヤン(榎森)は、異色だし貴重な存在だと思う。私のような新聞記者が届かないところに届く言葉を持っている。それは素直な人柄からくる笑いの力だと思うんです。せやろがいおじさんは演じられるものじゃなくて、誠実で真面目な人柄からきている。沖縄のお笑いはこれまで、笑ってはいけないとタブー視していた自分たち自身の現状を笑う方向性に人気があったけれど、エモヤンは外向けに理論を組み立てながら発信していく笑いなのではないでしょうか」

 榎森がマネジメントを委託するウェブ等の制作会社の社長・堤玄太郎(40)も、「自分の想像や発想を超えた度胸と努力で、傷つきながら乗り越えていく」と評価し、仲間として支える。

 日本では、「権力」を笑いの対象にする芸人は敬遠され、地上波などの番組には呼ばれない傾向が強い。それは、スタッフがスポンサーや番組にクレームが入ることを懸念して、思い切った番組を作れないということもあるだろう。榎森は当然そこを気にかけつつも、ネットの最前線でこの問題については熟考と分析をしてきたはずだ。

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