沖縄県那覇市牧志にあるライブハウス「Output」で。「呼ばれたらどこでもしゃべりに行きます!」
沖縄県那覇市牧志にあるライブハウス「Output」で。「呼ばれたらどこでもしゃべりに行きます!」

 お笑い芸人・ユーチューバー、せやろがいおじさん(榎森耕助)。赤い鉢巻きに赤Tシャツ、赤い褌姿で政治について弾丸のように語り、最後は「せやろがい!」と海へ飛び込む。せやろがいおじさんこと榎森耕助は、これまで芸人があまり触れなかった政治をネタに、芸人として活動している。なぜ芸能人は政治を語れないのか。なぜ政治を語ると叩かれるのか。榎森の笑いは、もっと自由に語れる社会への道筋になる。

【写真】「せやろがいおじさん」のおなじみのスタイルがこちら

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 東京・日本橋の線路際の仄暗(ほのぐら)い通りを往くと、地下のライブハウスを指し示すちいさな照明が見えた。スタンダップコメディ「せやろがいおじさん 独吐」ツアーの東京公演。「せやろがいおじさん」こと芸人の榎森耕助(えもりこうすけ)(35)は、同ツアーで全国十数カ所を転戦している最中で、この日は昼の部の公演をこなし、夜の部の公演に備えているところだった。

 本番前にマネージャーに頼み控室へ声をかけてもらうと、スウェット姿の榎森が現れた。下だけ衣装の赤いパンツ。聞けばそのスウェットは沖縄に本拠地を置く強豪のプロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」の限定品らしく、大のバスケファンぶりがうかがえた。郷里の奈良県天理市にある天理中学・高校でキャプテンとしてバスケットボールに没頭し、高校時代は県内でもトップレベルの成績を残した。沖縄国際大学に進学するために沖縄に移住したが、それ以降も続けている。バスケットボールをやっているときが唯一、無心になれるという。

 100人近くが入る会場は昼夜ともに満席状態だった。ある地方公演では数人しか客が入らず、東京で相殺していることをギャグにしていたが、いま勢いがある芸人であることは間違いないだろう。「勢い」と言ってもテレビでよく顔を見るという意味ではない。榎森がよく知られているのは、ユーチューブだ。赤鉢巻きに赤Tシャツ、赤褌(ふんどし)といういでたちの「せやろがいおじさん」キャラとして、沖縄の海岸をバックに、主に政治や社会問題に斬り込んだ動画を配信している。2017年ごろから始め、現在ユーチューブの登録者数は約32万、ツイッターのフォロワーは約34万人。

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 最近では、衆議院議員の杉田水脈が総務大臣政務官を辞任したとき、「豊富な語彙(ごい)力で差別発言してたやん。あなたに足りないのは、それは違うとつっこんでくれて、爆笑に変える相方や。俺と漫才やれへんか」などと猛烈に批判しながら、挑発とも皮肉ともとれる動画を即座に配信した。東京オリンピック開催のときは、コロナ対策よりも開催を優先しようとする政府や国際オリンピック委員会(IOC)を批判し、中止を訴えた。アスリートも意見表明をするべきだと踏み込んだときもある。

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