「台本は基本的に自宅、もしくは移動中に車を停めて作りますね。動画の撮影現場で書くこともあります」
「台本は基本的に自宅、もしくは移動中に車を停めて作りますね。動画の撮影現場で書くこともあります」

「政治をネタにするスター芸人がおらず、そもそもモデルケースがいないんです。そうすると目指す人が出てこないですよね。特に考えもせず、政治ネタは避けるべしとの暗黙の了解の中でやってる、というのが多い気もします」

 政治の話をする人に対して「面倒臭(めんどうくさ)い人」という世間のイメージがあるのではないか、とも考える。さらに、社会に対する知識がないことに、うっすらとしたコンプレックスを抱える人や、罪悪感を覚える人は案外多いのではないか、とも。

「政治のことを話す人が出てくると、『社会や政治に知識と興味のない自分がダメな存在になってしまう』というような不安から、『政治の話をする奴らのほうが、空気読めてない面倒な奴らだ』と嘲笑し、そうすることで自分たちを“マトモな側”であると思いたいという心理作用もあるのかもしれません」

 これまでにも、顔の見えない相手からバッシングを受けたこともあるし、離れてしまう客もいた。ネット社会の特性を身をもって知っても、躊躇(ちゅうちょ)はない。しかし──「たぶん、ぼくは政治を語る人になってしまっているんですよ」。

 そう榎森は自分を客観視するように呟(つぶや)いた。「政治の人」でイメージが固定されると、政治のことに関心や興味のある人にしか聞いてもらえない。それは榎森の望んでいる姿ではない。「面白いことを言う人の話を聞いたら、政治のこともしゃべっていた」と、そんなふうに自分をもう一回ブランディングしないといけないと考える。

 そこで今、力を入れるのが、「スタンダップコメディ」なのだ。スタンダップコメディは、コメディアンが基本的には一人で観客の前に立ち、社会や政治など、さまざまなことを風刺しながら話をするお笑いだ。海外では主流の話法で、家族やシモネタなど、何でもネタにする。

「自分の笑いの世界は、まだまだタブーと言われていることの際(きわ)や隙間、ギリギリのラインを見極めて攻めてないと思うんです」

 コメディアンや芸人は自由に語ることが大事で、社会派的なことしか語れないと芸人としておもしろくないと思うんですよね──と自身の伸びしろを見据える目は冷静だ。(文中敬称略)

(文・藤井誠二)

AERA 2023年2月6日号