たとえば、コミック7巻では、蝶屋敷で炭治郎と会話している時に、カナヲはしのぶのことを「師範」と呼ぶ。話は進んで、最終決戦直前の15巻では、以前よりもずっと自分の感情表現ができるようになったカナヲであったが、「あの…あの 私もっと師範と稽古したいです」と、やはりしのぶを「師範」と呼んでいる。訓練中のエピソードであるという点を考慮しても、カナヲには「遠慮」のような距離感が感じられる。

■『鬼滅の刃』の義姉妹・義兄弟

 栗花落カナヲと胡蝶姉妹は、血こそつながってはいないものの、「義姉妹」であり、信頼し合った師弟関係であることは間違いない。

 やや類似の関係として、『鬼滅の刃』では、我妻善逸とその兄弟子・獪岳(かいがく)の例がある。2人は同じ師を持つ「義兄弟」だった。彼らは「雷の呼吸」の後継者問題のせいもあり、最後の決戦では「兄弟弟子」対決という悲劇に見舞われる。それでも、互いへの態度には、カナヲたちよりは遠慮がなく、「仲が悪い兄弟」といった印象だ。身内であるがゆえに、愛憎が深い。

 では、栗花落カナヲと胡蝶姉妹を隔てていた「壁」は何か。雷兄弟のケースでは、少なくとも善逸は、獪岳に追いすがり、兄として、兄弟子として慕い続けていた。獪岳をバカにする鬼殺隊隊士たちとけんかをして、返ってこない手紙を獪岳に出し続けた。

 しかし、胡蝶姉妹は、カナヲの心に強引に入っていこうとはしなかった。カナヲもまた、胡蝶姉妹を愛し、憧れ、大切にしていたが、3姉妹のようには振る舞うことができなかった。これは、良い悪いという問題ではない。カナヲと胡蝶姉妹には、真に打ち解けるまでの「時間」が足りなかった。その時間は、姉妹の因縁だった「鬼」によって奪われてしまったからだ。

■「死」によってひらかれる、「肉親」という感情

<生まれて初めての感覚に眩暈がする 怒りを通り越して これは憎悪だ 憎い よくも殺したな 私の肉親を!!>(栗花落カナヲ/18巻・第158話「破茶滅茶」)

 コミック18巻で、カナヲは、カナエとしのぶの「かたき」である、鬼・童磨(どうま)と対峙する。童磨による「姉」への行為のおぞましさを目の当たりにして、カナヲの感情が爆発する。カナヲは、この時やっと自らを「私は…栗花落カナヲ 胡蝶カナエと胡蝶しのぶの妹だ…」と名乗ることができた。

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「きっかけさえあれば 人の心は花開くから大丈夫」