当初、原稿の依頼から締め切りまでのスケジュールは3週間を予定していたという。
「ところが原稿が締め切りよりも前にバンバンくるんですよ。なかには日本のやり方がおかしいと思っている人もいるし、自分の住んでいる国の理不尽さにあきれる人もいる。みんな伝えたかったんでしょうね。さらに全員に共通して言えたのが『自分はここにいるぞ』ということ。これが言いたかったんだろうなと感じました。海外に暮らすということは少数派で生きるということです。コロナ禍でさらに加速したと思います。そんな環境でもたくましく生きている人たちがいる。その姿に勇気づけられるのではないでしょうか」
(編集部・三島恵美子)
■リブロの野上由人さんオススメの一冊
『憲法学者の思考法』は、論点整理された専門知の利用価値について説いた一冊。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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ここ数年の新聞や雑誌に掲載された短い論考を集めた本。この書名は、憲法学者である著者自身の思考法というだけでなく、憲法学の蓄積を踏まえた思考法という意味も含む。決して著者の突飛な独創ではなく、長年の研究や論争があって論点整理がなされているからこそ今こう言える、そういう構えがある。
社会のさまざまな事象のうち、何に注目し、何について書くのかは著者個人の選好によるだろう。しかし、その論点につき、どう考え、何が言えるかは、学問の枠組みによる。当たり前だが、専門家の思考法とはそういうものだ。
著者は少し苛立ってもいる。世間では憲法学の知見を参照しない、憲法学者からみれば的外れな論争も少なくない。本書は、専門家の標準的な理解を世間に熱心に発信し続けている著者が、専門知の利用価値を説く本でもある。
※AERA 2021年3月15日号