AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
旅に関する著書を多数執筆している、下川裕治さんによる『日本の外からコロナを語る 海外で暮らす日本人が見たコロナと共存する世界各国の今』が刊行された。ロックダウンの街、米国、中国、台湾、ベトナム、カンボジア、韓国、タイ、フランス、フィリピンに暮らす日本人9人の物語を“寄稿”という形で編纂したものだ。著者の下川さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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「どうしているだろうか」
本書は海外に暮らす在外日本人を心配する下川裕治さん(66)のそんな一言から幕を開ける。
旅を書くことを生業としている下川さんと在外日本人との関係は深い。行く先々で話を聞きたい人を紹介してもらったり、名もない村への行き方を教えてもらったり……。下川さんの旅を支えてきた在外日本人たちは、コロナ禍で感染予防のために現地に幽閉されるような状況に陥っていたり、日本政府からの給付金を受給できないような不遇に見舞われていたりした。
「本来は私が現地に赴き、話を聞いてまとめるべきなのでしょうが、今はそれができません。オンラインで話を聞くという方法もありますが、相手の息づかいまでは拾えない。果たしてそれで彼らの思いを余すところなく伝えられるのか。そこで寄稿してくれる人を募りました」
手を挙げてくれたのは、米国、中国、台湾、ベトナム、カンボジア、韓国、タイ、フランス、フィリピンに住む9人。責任編集の下川さんが「はじめに」を執筆し、その後に音楽プロデューサーや翻訳家、日本レストランの経営者といったさまざまな職業で生計をたてる在外日本人たちが「コロナ禍をめぐる物語」を紡いでいった。
「この本を読むと、スピード感ある他国政府の対応や厳しい感染予防対策など、海外と日本との差に驚かれる人も多いでしょう。それはそれでありがたいことですが、状況に応じてコロナの対策は変わりゆくもの。本にまとめる以上、一時(いっとき)だけの記録にはしたくはなかった。依頼する時に『自分で選び、積み上げてきた人生がこんなことで一変してしまうものなの?』という彼らの気持ちが行間からにじみ出るといいと思っていました」