しかし、そんな廃人生活も1年半程度で終了。直接の原因は、オンラインゲーム内の人間関係でした。プレイヤー同士で連携してミッションを達成するゲームでしたが、プレイヤー間の人間関係でトラブルが起きたのです。
私が思うに、本人が「やりきった」と思えるほどゲームにのめり込めたのも離れられた要因のひとつでしょう。
■ 株取引を始めるもリーマンショックで夢ついえる
ゲームの中への移住を諦めてから次の目標を鬼頭さんは見つけます。次の目標は「人と関わらないで生きていくこと」。学校でもゲームでも人間関係で疲れた鬼頭さんならではの結論です。
「生涯ひきこもり」を目指した際に何を取り組むべきか。中長期的な視点に立って目をつけたのが株取引でした。株取引で生活費を稼げれば人と関わらずにすむだろう、と。鬼頭さんは独学で勉強を始め、1年後に自分の貯金を元手に株取引を始めました。
方針は「少額でよいので絶対に儲ける取引」に徹すること。目指しているのは一攫千金ではありません。確実な生活費を得るため、「この流れなら儲けられる」と思っても手を引く。代わりに少ない利益でもよいので確実性を大事にして取引を終える。この方針、最初はうまくいきました。毎日のように数百円から数千円の利益が出たそうです。
何カ月も経つと少しずつ増えていく貯金とともに「ひきこもりながら生きていける」と期待感も膨れ上がってきました。ところが無残にも、その夢は終わります。2008年のある出来事で利益を全部スッたからです。お察しの通り、アメリカの投資銀行「リーマン・ブラザーズ・ホールディングス」が2008年に経営破綻したことに端を発した金融危機、リーマンショックです。
正直に申し上げまして、私のような庶民たちにとってリーマンショックや金融危機などは遠い存在でした。ニュースを見ても「投資家さんが困っているのかな」と思う程度。まさか、あのリーマンショックで青ざめているひきこもり青年がいるとは…。
■ もう無理だ ふつうに生きるのはあきらめよう
リーマンショックのあと、私は鬼頭さんと出会います。私は2009年、映画監督・押井守さんへの取材に帯同できるひきこもり当事者を探していました。噂を聞きつけた鬼頭さんは「二度とないチャンスだ」と思ったそうで、私に連絡をくれました。家族以外の人と直接、話すのはひさしぶりだったようで、電話越しにも緊張感は伝わってきました。