日常生活が送れないほど腰が痛いのに、はっきりした原因がわからないことも多い慢性腰痛。腰痛の患者数は3千万人ともいわれる。昨年11月、治療指針である「腰痛診療ガイドライン」がまとまり、科学的根拠に基づく治療法ごとの有効性が示された。

 神奈川県在住の会社員、高橋敏則さん(仮名・40歳)は2010年春、会社で走ってきた同僚と激しくぶつかる事故に遭い、腰に強い衝撃を受けた。その後、腰が痛み、足にもしびれが出て、会社を休みがちになった。

 高橋さんは、大学時代に椎間板(ついかんばん=背骨の間のクッション)ヘルニアの手術を受けたことがあったため、腰の痛みが再発したことをとても不安に感じた。近所の整形外科でMRI(磁気共鳴断層撮影)検査を受けたが異常なし。その後の痛みは尾骨にも広がったが、再度検査をしてもやはり異常はなかった。

 医師からは「慢性腰痛だと思うが、原因はわからない」と言われ、関東労災病院勤労者筋・骨格系疾患研究センター長の松平浩医師を紹介された。松平医師は同院で厚生労働省委託事業として、腰痛の研究を兼ねた診療を実施していた。

 松平医師は言う。「高橋さんはX線、MRI、血液検査でも特に異常はありませんでした。そこで、週1回、1時間ほど問診をし、生い立ち、仕事、生活、人生観などについて聞くアクティブリスニングをおこないました」。

 アクティブリスニングは、腰痛の原因となっていると思われる問題点(症状、人間関係、ライフスタイルなど)を確認し、共感して傾聴するという方法だ。

 それにより、高橋さんが事故の労災保険がなかなか認定されないなど会社の対応に不満を持っていたことや、その後移った新しい会社でストレスがたまっていることなどがわかった。また、日々の腰痛の程度などを記録する「腰痛日記」を2カ月ほどつけてもらったところ、長い会議の後など仕事のストレスが高まるときに腰痛が出現することも判明した。

 松平医師は、会社を休まず、不安やストレスに感じる思考を極力転換し、前向きな考え方をするようにと高橋さんに話した。同時に腰をそらすマッケンジー法という運動療法をすすめた。

 高橋さんは、実家が東日本大震災に見舞われた際にも腰痛が強くなり、心的ストレスと腰痛との関係を如実に認識。11年4月には、腰痛持ちを自覚する要因となるコルセットをはずし、水中ウオーキングなどを続けた。その結果、9月に父親が倒れた際、3カ月間、週末に実家に通って介護をするという厳しいスケジュールをこなせるまでに腰痛が回復。その後、海外旅行に行けるまでに改善した。

「高橋さんは心の問題と腰痛が結びついた典型的な例です。腰痛を自らコントロールする術を学んだため、快方に向かいました」(松平医師)

週刊朝日 2013年5月17日号