橋田さんの私的な楽しみは海外クルーズだった。「渡る世間は鬼ばかり」の脚本を1シリーズ書いたら自分へのご褒美のつもりで1年おきに旅に出ていた。できれば世界遺産を全部見たいと言っていて「世界遺産おばさん」と呼ばれたという。
「船の旅はお金はかかるけれど楽でいい。トランクやスーツケースを20個ぐらい積んで停泊した港から秘境や名所に行く。クルーズ船にはプールや映画や舞台、カルチャー講座などなんでもある。なんといっても船旅の人物ウォッチングが楽しい。乗客は年を取られた老夫婦が多いですけど、男性は一人では何もできなくて夫人についていくばかり。ときどき、夫に先立たれた女性もおられますが、とても元気です」
橋田さんも夫、岩崎嘉一さんを30年以上前に亡くしている。橋田さんは4年半前に『渡る老後に鬼はなし スッキリ旅立つ10の心得』(朝日新書)を出した。
「同じ熱海に住む泉ピン子さんから『ママは来年90、もう十分年を取っているんだよ』と言われて89歳で『終活』に手をつけました。蔵書の多くは熱海市の図書館に寄贈、資料として取ってあった新聞の切り抜きなどはすべて処分しました。長い間詰め込むだけでのぞくこともなかった押し入れの片付けを始めると、いろいろなものが出てきた。バッグなんか120個も。片づけ続けること1年余り。何十年もたまったものがなくなった。家の中がすっきりした。『終活』をするにあたって『なにもない』がいちばん幸せだと思っています。爽やかに最後を締めくくりたいじゃありませんか」
橋田さんは若い芸能人との交流もあった。3年前に元SMAPの香取慎吾さんとの対談をお願いすると、「慎吾さんと久しぶりに話せるならぜひ会いたい」と二つ返事で快諾。わざわざ東京の朝日新聞社まで足を運んでくださった。(山本朋史)
※週刊朝日 2021年4月23日号