■特別休暇の要望書を提出 グリーフケアを受ける土台
事件のない社会に──。
冒頭で紹介した松永さんは、あいの会に参加し活動を続けている。
2月、松永さんは、あいの会とともに犯罪被害者やその家族が「特別休暇」を取得できることを企業に義務づけるよう要望書を厚生労働省に提出した。
犯罪被害に遭うと精神的・身体的に傷つき、仕事の能率低下や通院、裁判への出廷などのため仕事を欠勤しても職場の理解を得られず離職する人が少なくない。厚労省の調査(19年)では、犯罪被害者のための休暇制度を導入していた企業は1.7%にとどまった。
松永さんは言う。
「被害者遺族には、心と体の回復や捜査機関への協力、裁判と向き合う時間が必要です。僕の場合、忌引休暇や10年連続勤務など全部組み合わせ1カ月の休みをとることができました。あの1カ月がなければ、心の回復は間違いなくできていなかったと思います」
同時に松永さんたちが力を入れているのが、大切な人を亡くした喪失感からの立ち直りを支援する「グリーフケア」だ。松永さんは、事件が起きる前の「防止」とともに、事件後のグリーフケアも大切だと話す。
「僕は、一人ではとても生きてこられなかった。いろんな方の支援をいただき、支援者ともつながることができて生きてこられたと思っています。被害者になった後のグリーフケアを受けられる土台をつくっていきたい」
今も月に1度カウンセリングを受け、つらくてベッドから起き上がれないこともある。苦しみや悲しみが絶えることはない。それでも、事件の真実を明らかにするため裁判を続け、一人でも被害に遭う人を減らしたいと話す。
松永さんを動かす原動力は、何か。松永さん自身はこう言う。
「活動をしていたら真菜と莉子が応援してくれる感じがするんです。声は聞こえないけど、感じます。活動することが生きる力になっています。だから活動していこう、と」
そして、こう続けた。
「いつか僕の寿命が尽きた時、天国の2人に再会し、『お父さんは1人でも2人でも命を救うお手伝いができたよ』と胸を張って言いたい。そして、『お父さん、がんばったね』って2人に抱きしめてもらいたい」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2021年4月19日号