「犯罪被害に遭うと目の前が真っ暗になります。人間はある程度、未来を予測していると思います。僕の場合、莉子が成長して独り立ちしたら、真菜とずっと生きていくんだと思っていました。それが一気に真っ暗になる。何をしていいか、どう生きていけばいいかもわからなくなります」(松永さん)
今も毎年、交通事件だけで3千人前後が命を落としている。大切な人を突然奪われた遺族の日常は一変する。
交通事件の被害者遺族らでつくる「関東交通犯罪遺族の会(あいの会)」代表で、自らも被害者家族である小沢樹里さん(40)は、被害者が被害に遭った直後に置かれる状況を算数に例え、こう話す。
「算数がどこで躓(つまず)いて分からなくなったか分からないように、犯罪被害者も同じ。どこから分からなくなったのか分かりません。そうした状況で、葬儀や役所回りなど情報を集めて様々なことをやらないといけません。しかも、一度にです。混乱した中、必要なものは何かが見つけづらいのが現状です」
そうした中、犯罪被害者に関わる人の一助にと、事件の遺族らでつくる「途切れない支援を被害者と考える会」(東京)が14年に作成したのが「被害者ノート」だ。A4判でカラー約100ページ。情報を整理してもらうことなどを想定し、事件の状況や加害者の情報を細かく記入する欄を設けた。支援団体の連絡先、弁護士の紹介窓口も記載。被害者に必要なことはほぼ網羅されている。松永さんも事件から約1カ月が過ぎたころ、被害者ノートを手にした。先の小沢さんが送ってくれた。「一人で悩まないでください」という手書きの手紙と一緒に入っていた。
松永さんは振り返る。
「それまで法律のことも裁判のことも素人で、刑事と民事の違いさえよくわかっていませんでした。精神面のアドバイスや今後のことも書いてあって、真っ暗だった目の前に道ができた感覚になりました」
予期せぬ事件・犯罪で命を落とした人の遺族や、心身に傷を負った被害者をどう支えるか。それは国と自治体の責務でもある。