予期せぬ事件や犯罪で、心身に傷を負った被害者や遺族をどう支えるか。日本の被害者支援は、欧米と比べ20~40年遅れているという。池袋暴走事件から2年──。遺族の松永拓也さんがその思いを語る。AERA 2021年4月19日号の記事を紹介する。
* * *
家族3人が暮らした部屋は2年前のまま、ほぼ手つかずで残っている。
東京・池袋。暴走した車にはねられ、妻子を亡くした松永拓也さん(34)は、静かな語り口で心の内を吐露する。
「いつも自分に問うています。何をしたら、愛する2人が喜んでくれるだろうかって」
2019年4月19日。松永さんは、この事件で、最愛の妻・真菜さん(当時31)と娘の莉子(りこ)ちゃん(同3)を亡くした。
松永さんが真菜さんと出会ったのは彼女の故郷・沖縄。親戚の法事で集まった時、いとこが紹介してくれた。松永さんの一目ぼれだった。15年に結婚し翌年、莉子ちゃんが生まれた。
松永さんは、真菜さんが他人の悪口を言うのを聞いたことがなかった。
「愛にあふれる人でした」
遺体を自宅に引き取り、3日間、夜は3人で「川の字」になって寝た。手をつないだ。莉子ちゃんが大好きだった絵本を読んで聞かせた。
かけがえのない家族を突然奪われ、生きる意味を失った。この先どう生きていけばいいかわからない中、事件現場に通い考えた。事件を起こした高齢ドライバーへの憎しみはあった。だが、愛する2人なら、どのような選択をするか考え続けた。
「交通事件のない優しい社会にすることができたら、2人は自分たちの命が無駄にならなかったと言ってくれるんじゃないかと思って」
事件から5日後、あふれる涙をこらえ、記者会見で語りかけた。
「運転に不安がある人は運転しないという選択肢を考えてほしい」
■突然奪われ日常は一変 「被害者ノート」は一助
昨年4月、一周忌を機に実名も公表した。心の準備、闘う準備、交通事件防止活動と犯罪被害者支援を続けていく決意表明でもあった。