Aさんは初潮から大人になるまで、生理痛などの重い身体症状はなかった。しかし就職して5年ほど経つと、自分では制御できないほどいら立つことが増える。上司に意見したり、同僚と口論になったりし、その一方で「消えてしまいたい」とひどく落ち込んだりもした。振り返れば、気持ちが乱れるのはいつも生理前。こうしたことが原因で転職したこともあった。

 気分のアップダウンは、転職後の一時期は治まっていた。それが妊娠・出産を経て職場復帰を果たすと、再びイライラや落ち込みが強く出始める。夫とのケンカが増え、幼い子どもにも必要以上に怒鳴ってしまう自分を責め、「死んでしまいたい」と思うこともあった。

「自分はおかしいのでは?」

 悩んでいたAさんは、インターネットで調べ、PMS・PMDDを知った。

 思い当たる症状が多く、Aさんは婦人科を受診する。医師に「おそらくPMDDでしょう。当院では35歳以上の方は診られないので、心療内科を受診してください」と言われ、Aさんは心療内科を受診。処方された薬の服用を始めて以降、精神的には安定している。

 Aさんのように、月経前の不調で悩み苦しんでいる女性は少なくない。しかし、「治療できる」ことを知らないため、適切な対処方法にたどり着くのが遅れる。これは、学校での性教育・月経教育不足が一因なのではないか。そして、男性も月経教育を受けていれば、Aさんのような職場や家庭でのトラブルは減らせたのではないかと筆者は考える。

■    まだ教科書にも載っていない

 元養護教諭で、現在性教育講師として小・中学校・高校で性教育を行っている「にじいろ」さんによると、月経教育の男女共修は、1992年頃から始まったのではないかという。

「1992年以前には、小学校には保健の教科書は存在しませんでした。1992年頃に教科書ができたことから、それまでの小学校では女子だけで秘め事のようにやっていたことが、男女分けずに『授業として学ぶもの』という形になっていったのではないかと思います」

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現状は…自治体や学校で差