0対0の6回2死、左越え二塁打で出塁したマートンは、福留孝介の中前安打で一気に本塁を狙った。

 上田剛史の好返球で、完全にアウトのタイミングだったが、マートンはボールを持って待ち構えていた捕手・相川に正面から激しく体当たり。相川は吹っ飛ばされながらもボールを離さず、起き上がるやいなや、怒りの形相凄まじくマートンに掴みかかった。

 実は、相川は田中雅に「(マートンが)次やったら、オレがやり返してやるから」と仇討ちを約束していた。後輩の分も併せて“倍返しだ!”といきり立ったのだ。

 たちまち両軍入り乱れて大乱闘となり、レフトから駆けつけたバレンティンが「冷静になれよ」とマートンを手で制する場面も見られた。

 マートン、相川の2人が暴力行為で退場処分を受け、試合再開となったが、相川の突進をガードしながら後退するだけで、応戦しなかったマートンは「Why?自分からは何も言えないよ。向こう(相川)に聞いてくれ」と喧嘩両成敗の裁定に納得できない様子。一方、相川は「普通のプレーで自分がエキサイトしてしまっただけです。すみません」と反省の言葉を口にしたが、この事件がヤクルトナインを奮い立たせる。

 ベンチで宮本慎也が「この試合はもう負けられない」と檄を飛ばすと、小川監督も「相川が体を張って本塁を守ってくれた。何とか勝たなければいけない」と勝利への執念をたぎらせた。

 その裏、三輪正義が内野ゴロで本塁に生還する好走を見せ、1点を先取すると、7回にも森岡良介のスクイズで加点し、2対0。まさに相川の気迫が生んだ勝利だった。

 翌15日、マートンと相川には厳重注意と制裁金15万円が科せられたが、マートンは8月14日の広島戦でストライク判定に暴言を吐いて退場になったばかりとあって、1試合出場停止も追加されている。

 そして、15年5月13日の神宮のヤクルト戦で、第3の事件が起きる。

 0対0の2回1死、三塁走者のマートンは、伊藤隼太の右飛でタッチアップ。雄平が矢のようなバックホームを見せ、これまたタイミングは完全にアウトだったが、マートンはお構いなしに捕手・西田明央目がけて十八番のタックルをかます。

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コリジョンルールと入れ替わりで日本を去ったマートン