その後結婚して、長男を出産。そして2人目の長女出産後から、Aさんは月経前になると急激に体調が悪化するように。情緒不安定、集中力減退、睡眠過多・不眠、偏食・過食、限界感、自己喪失感から希死念慮が出現。頭痛や肩こり、便秘や下痢、めまいや腰痛などもあり、Aさんは婦人科や心療内科だけでなく、保健所や区役所など、さまざまな機関に自分の体調や子育ての悩みを相談し、助けを求めた。当時、3歳になる息子はイヤイヤ期真っ盛り。夫の帰りはいつも夜中で、妊娠中からずっと家事・育児に1人で追われてきた。

「長女出産後から、私はずっと心が張り裂けそうでした。夫は仕事で大変でしたし、どうせ話してもわかってもらえないと感じていました」

 やがてAさんは「死のう」と思い、準備を始めたが、ある晩突然気がつく。「こんなに愛おしいわが子たちとの心中を考えるほど、私は毎日頑張ってきたんだ」「この子たちの成長を見続けていたい。死んだらダメだ」と。Aさんは1人で大号泣した。

「今振り返ると、あのころの私は産後うつだったのだと思います。今はもう、死ぬ準備はしていませんが、やっぱり生理前になると、ひどいときはベランダから下を覗き込んだり、駅のホームから線路を見つめたりしています……」

■産後うつ、虐待、夫婦喧嘩とPMS・PMDD

 私はこれまで取材や、自助グループ「月経前の悩みに寄り添う会」の活動などで、PMS・PMDDに悩み苦しむ女性やそのパートナーに話を聞いてきた。その中で、産後うつや虐待、育児放棄や夫婦喧嘩、離婚などの家庭問題とPMS・PMDDには、深い関係があるのではないかと考えるようなった。なぜなら家庭問題を抱える女性も、普段は明るく穏やかで、理知的な人ばかりだったからだ。

 しかし、産後うつとPMS・PMDDは別の疾患(症状)。別の疾患(症状)であるため、医学的にみて両者に因果関係があるかどうかは、慎重に議論しなければならない。

 関西在住の産婦人科医 Haru医師は「直接的な原因とするのは時期尚早」と、冷静に説明する。

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母親になる、という環境変化