もうひとつ、大鵬さんがらみで肝を冷やしたことがある。まだ番付が三段目か幕下のケツくらいの頃、大阪場所中にタニマチとミナミのクラブで飲んでいたんだ。番付が下の力士が夜中の12時とか1時まで飲むのはよくないことなんだけどね。でも俺も飲んでいるうちに気分が良くなってきてね、その日は雨が降っていたんだけど「こういう日は相撲取りが来るんだよなあ」なんて話していたら、入り口にデカい人影が現れて、それが大鵬さんだった!
見つかるとマズいと思ってとっさに店の隅に隠れたけど、いずれバレるだろうから自分で「横綱、こんな夜中にすみません。知っている人と一緒だったもんで、こんな時間になってしまいました」って、あいさつしに行ったんだ。そうしたら大鵬さんが「今は場所中だし、お前はこれから十両に上がって行くんだから、早く帰ってからだを休めろ」と言って、タクシー代3万円をくれたんだ。横綱はさすがだと思ったね。それで帰ろうって店を出たんだけど、タニマチが「もらった金で飲みに行こう」なんて言い出してさ。俺も俺で「そうだなぁ」なんて、それからまた飲みに行っちゃった(笑)。
その時は飲んで気が大きくなっていたからいいけど、翌日はおびえていたよ。だって、大鵬さんがひと言「こいつ、夜中までタニマチと飲んでいたよ」と言ったら、先輩が「生意気だな。かわいがりだ」となるからね。でも、大鵬さんは一度もそのことを言わないでいてくれて、すごく感謝したよ。まして、もらった金で飲みに行ったのがバレたら、先輩たちから1時間は竹刀とホウキでぶん殴り続けられて、半殺しにされたと思うよ。いやぁ、危なかった。あの頃は俺も若くて調子こいていたね……。
相撲で怖い、というよりも苦手だったのが前も話したことがある“フックの花”こと福の花だ。フックのような張り手をアゴに食らってノックアウトされたりしたからね。プロレスでは馬場さん。からだがデカ過ぎて対戦するのは嫌だったね……。いつもと視点が違うし、背伸びしながら戦わないといけないから疲れるし、こっちの力が出し切れない。