古くから漁師町だった千葉県の浦安には魚市場があった。映画は、昼間は魚屋、夜はロックバンドのボーカルの顔を持つ「鮮魚 泉銀」を営む森田釣竿さんを中心に展開。2018年春から撮影を始め、19年3月の閉場までを記録する──。連載「シネマ×SDGs」の31回目は、失われていく「場」を考えさせるドキュメンタリー「浦安魚市場のこと」の歌川達人監督に話を聞いた。
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2017年にたまたま行った映画祭で、本作のメインの登場人物となる森田釣竿さんに出会いました。映画上映後にその場で魚を売り出した姿が衝撃で。何者かと思ったら、彼は浦安魚市場にある「鮮魚 泉銀」という魚屋さんでした。その後、浦安魚市場が19年3月に閉場すると聞き、実際に行ってみてここを撮ろうと思いました。
僕は人に興味があるんですが、以前から「場」にもすごく興味があります。いろんな人が出入りするし、そこからいろんな物事が見えてくる場の力ってすごい。そんな場を撮りたいと思っていた僕にとって、浦安魚市場はぴったりでした。
場にはコミュニティー的な機能がありますが、そんな場が世界を見てもなくなっているように感じます。浦安魚市場では常連さんが、「しばらく顔を見ないけど、あの人はどうしているだろうか」といったある種噂話のような会話をしながら買い物をしていました。特に年配の方々は、それがルーティンのようになっていたから、魚市場がなくなってしまって外出することがなくなり、認知症が進んだ人もいると聞いています。
それまであった場所がなくなり、全国同じような風景になっていくことに抵抗があります。古いものがなくなるのは時代の流れではありますが、その土地の文化がなくなるのはどうなのか。コミュニティーやまちがなくなるのはどうなのか。難しい問題だなと思いつつも、自分にはそれを止める権利もなければ力もない。だから、それを映像に残してきちんと記録したい。映画にすれば何回も繰り返しずっと観ることができるから。
本作は浦安というローカルな場の記録ですが、映画を観てくれる人が、なくなっていく場に共鳴してくれたらと願っています。(取材/文・坂口さゆり)
※AERA 2022年12月12日号