だからこそ、自分ひとりの行動に重みが伴います。たとえばこの冬、ご近所みんなが行きかう我が家の前の道が凍り付いていて、お隣さんにやんわり指摘されたことがありました。「北向きで日が当たらないところは、雪が解けずに凍り付いちゃって危ないの。その前に塩カルを撒いておけばいいんだけどね。塩カル持ってる? なかったらうちの使ってもいいよ」。道の氷は誰かが取り除いてくれるものではない、他でもない自分が地域のためにやるべき仕事なのだと初めて気づいた瞬間でした。他にも松本では、ゴミ当番や川の清掃・草取り、お祭りの準備・片づけなど、町内会の仕事が2~3カ月に1回は発生します。東京では目に見えない誰かがいつの間にか済ませてくれていた物事を、ここでは住民同士が自らの手を動かして行うのです。

 アメリカ南部育ちの夫はもちろん、大人になってから雪国で暮らすのが初めての私も、雪がやがて氷になることも、その対策は事前にせねばならないことも、住民として取り除く必要があることもわかっていませんでした。そしておそらく、ずっとこの地で暮らしているお隣さんにも、私たちがわからないことがわからなかったのではないかと思います。雪がやがて凍り付くなど、雪国育ちの人にとっては地球が丸いのと同じくらいの知識。今回お隣さんは親切に声をかけてくれましたが、言わずじまいの人もきっといるはずです。「よそから来た人は塩カルも撒かなくて困る」と、胸の中で不満を募らせてしまうかもしれません。

 言わずじまいが発生するのは、移住者のほうも同じです。先日、松本の伝統行事である「三九郎」の準備に夫が参加したときのこと。三九郎は他地域で「どんど焼き」「左義長」などと呼ばれる行事で、トップの写真にあるようなやぐらを組み立てます。組み立てるのは町内会の男性陣の仕事。屈強な男性たちが黙々と働く様子に圧倒され、夫は何をしたらいいのか皆目見当もつかず立ちすくんでいたそうです。でもやがて意を決して、キビキビ木材を運ぶベテラン風情の男性に「自分は何をしたらいいですか」と日本語で尋ねたところ、「実は私も初参加でわからない、とりあえず目についた木を運んでいる」と優しい声で答えが返ってきて、心から安堵したそうです。わからない、どうしたらいいかと正直に口に出したら、案外同じ境遇の人がいるかもしれないという発見でした。

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自分の重みを感じられる心地よさ