そのベテラン風の男性が、後から私に言いました。「旦那さん、実は日本語できるんですね」。きっと、夫に何語で話しかけたらいいかわからず声をかけずじまいの人が多かったのだと思います。外国人移住者と住民との間にすれ違いがあるとしたら、言葉の壁が多分に含まれるでしょう。日本語が多少できる夫でも、いや多少できるからこそ、「日本語にはあいまいな表現や立場に応じた話し方が多いから悩む。間違ったニュアンスの言葉を使って相手の気を悪くしたらと思うと、なかなか声をかけにくい」と言います。こうしてお互いの言わずじまいが進むことで、「地方で外国人が暮らすのは難しい」となってしまうのかもしれません。でも、決して地方の人が外国人嫌いなわけではないし、むしろ地方で暮らす方が自分の重みを感じられて心地よい。家族に外国人を持つ、いち移住者としての感想です。
〇大井美紗子(おおい・みさこ)
ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi
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