経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出した。その三つの「基本的方向性」が、経済的支援の強化、子育て家庭向けサービスの拡充、働き方改革の推進である。これによって、「ようやく政府が本気になったと思っていただける」ようにするという。
今は亡きアホノミクスの大将の下で、黒田日銀が「異次元の金融緩和」に踏み切った。そして今、アホノミクス丸ぱくりを基本路線とするアホダノミクス男の岸田首相が、「異次元の少子化対策」に取り組むという。この人たちは、どうしてこうも異次元好きなのだろう。金融政策における異次元と、少子化対策における異次元の関係はどうなっているのだろう。両者は、一つの異次元界に存在するのか。それとも、それぞれ別の異次元に属しているのか。異次元の異次元性は何によって決まるのか。
あれこれ調べていたら、異次元に関する次の解説を発見した。
「文学的空想における異世界alternate (other) worldと数学の次元概念dimensionとを合成した造語で、正しくは高次元的に存在可能な別世界とでもいうべきもの。近代SF文学のテーマとして盛んにとり上げられて以来、広く一般の関心を呼ぶようにもなった」(世界大百科事典第2版)
おお、異次元金融緩和も異次元少子化対策も、SF的概念だったのか。「高次元的に存在可能な別世界」は何やら不気味だ。そんなところに連れていかれて、帰ってこられなくなったらどうすればいいのか。そんな別世界で講じられる対策の下で、子どもたちはどんな大人に育っていくのか。異次元からの帰還が至難であることを、日銀が我々に示してくれている。異次元緩和が金融市場をどんなに化け物化したか。我々は今、それを目の当たりにしている。