英政さんにシツイさんが楽しみにしている今回の東京五輪に関してたずねてみると、「前回の東京五輪は、子育てと理容店での仕事で忙しくて全然見られなかったんです。だから、今回はテレビで見られるだけでも嬉しいと思います」

 開会式を前に予選が始まっているが、シツイさんが注目している競技は、聖火リレーをするほどの健脚なだけあって“陸上”!?

「見られるだけで嬉しいので、特に注目している競技があるわけではないですが、小学生の頃の母はチビだったそうで、今もチビなんですが(笑)、身長138センチしかない。この辺は田舎なので、小学校が分校で3つに分かれていて、年に一度、1か所に集まって運動会をやるんですが、その時は徒競走、学校対抗リレーでいつもトップだったと言っています。チビなんですけど走るのは早かったみたいです。運動全般、得意だったみたいですね。当時はドッジボールとかそんなスポーツしかなかったみたいですが。そうですね、僕と一緒に東京五輪を観戦すると思います。もし、母が若い頃に戻れたら陸上競技は好きだったかもしれないですね。その辺のところ母に話してもらいましょうか?」(英政さん)

 点滴を打って病院から帰ってきたシツイさんにつないでもらうことができた。

――体調はいかがですか?

「失礼いたしました。おかげさまで今のところ大丈夫です(笑)。元気そうな声をしていますか!? 声が少し枯れてしまっているんですが。へへへへっ」

――いよいよ開会式で聖火が灯りますがトーチを持った感想は?

「“ドスッ”という感じで、ちょっと重かったですよ。トーチを上げて走れるように、トーチと同じ重さの物を持ちながら、腕を上げて走る練習をしていました。毎日、1000歩。家の前の体育館の辺りや庭をグルグル、毎日欠かさず歩いていました。歩ける限りは歩こうかなと思っていますよ。歩数を増やしていこうと思っています。そうすれば、自分でいろいろなことができますからね」

――体操も毎日続けられていらっしゃったんですか?

「ここのところずっとちょっとショックで体操は続けられていませんでした。聖火ランナーが終わってすぐは、少しは続けていたんですけど……。あと、2~3日したらまた自己流体操を再開したいと思います。かかとで歩くようにしています。つま先で歩くと転んでしまう危険があるので、かかとでしっかり歩いています。なので、そろそろまた運動を再開したら、かかとで歩きますよ。今のところフラフラなんですけど(笑)」

――前回の東京五輪の時は?

「29歳でした。理容店がだんだん忙しくなってきた時で食事する時間すらなかった頃です。戦争中は子どもをふたり連れて疎開していて、夫を戦死で失いました。だから、子育てと理容店の仕事で前回の東京五輪は見ていないですよ。今回の東京五輪は開会式からゆっくり見られそうです。続けている理容店の仕事は予約のお客様だけで、もう、歳ですから、そんなに、頑張っていないんですよ(笑)。今年の11月10日で105歳ですからね。なので、なるべく自己流体操をやって、これからも自分でできることはやっていきたいと思っています!」

 元気を取り戻しつつある箱石シツイさんがつないだ聖火が、大坂なおみの手に渡り、開会式で聖火台に灯される。その瞬間を日本中が楽しみにしている。(AERAdot.編集部 太田裕子)

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