さらに苦悶の表情を浮かべ、ため息をついた。
「いったい、何を考えているんや。東京は和歌山の田舎と違う。防犯カメラがあちこちにある。バレたら簡単に捕まることがわからんのか。田舎もん過ぎる」
讃岐容疑者は天空橋駅近くのビジネスホテルに宿泊していたが、ホテル周辺にも、防犯カメラがいくつもある。追跡されると、すぐに犯行がばれてしまうのは、「どんな刑事でも、すぐに察しがつく」(同前)という。
前出の和歌山県警幹部は讃岐容疑者に厳しい処分を示唆しながらこう続ける。
「讃岐容疑者の処分より心配なのは、須藤容疑者の裁判や。その影響を考えれば、この盗撮はえらいことをしてくれた」
須藤容疑者は野崎さんの殺害について否認を続けている。その後、札幌市の男性から多額のカネをだまし取った詐欺容疑などでも再逮捕されたが、そちらも否認。すでに殺人で起訴されているので、裁判員裁判で裁かれることは確定的だ。裁判でも須藤容疑者は否認するとみられる。そこで争点になるのは、和歌山県警の捜査だ。
讃岐容疑者のようなでたらめな刑事が捜査し、裁判で証拠を提出したとなれば、須藤容疑者に反撃されかねないという。和歌山県警には苦い経験がある。
野崎さん怪死事件は「密室の犯行」という見立てで、消去法で須藤容疑者以外に犯行に及ぶものはいなかったという立証となった。同じような立証は1998年7月に起こった和歌山カレー事件でも行われた。死刑判決が確定している林眞須美死刑囚の公判で重要な証拠になったのが、カレーに混入されたヒ素の鑑定だ。ところが、2013年6月、和歌山県警科学捜査研究所の元男性主任研究員が証拠品の鑑定結果を捏造した虚偽公文書作成・同行使と有印公文書偽造・同行使の疑いで有罪判決を受けた。
元男性研究員は和歌山カレー事件の最大の焦点である、毒物が混入されたカレーの鑑定試料を運ぶなど、重要な捜査に関与。その後、林死刑囚の弁護団は、ヒ素鑑定に疑いがあると再審請求を起こし、争った。