「写真というものは撮った直後から『過去』になる」と紀信さん。「それを自分の中に取り込みながら、ヒト、モノ、コトに向き合う。撮り続けていく。覚悟が必要。力を蓄えないと出来事に負けてしまう。そこが難しい。楽に誤魔化さずに。そんなところは人に見せないけど。基本は撮りたい、観たい。ま、篠山『コウ・キシン』かな(笑)」

 現代の実相を浮き彫りにし、時代に墓碑銘を与える紀信さんの作品は「報道写真」とも言える。

「美術館は写真を額に入れて展示する。そんなの、写真の死体置き場だよ」

 では、なぜ今回美術館に? と訊くと紀信さんの目がギロリと光った。そこには74年の半年間、写真を掲載し続けたアサヒグラフの日々があった。

「朝日には百戦錬磨のカメラマンがいた。それなのにシノヤマに撮らせようという。それはシノヤマの写真を観たいっていう読者がいるからだって」

「やりましょう」と紀信さんは朝日に乗り込んだ。「いやぁ、大変なことになった」と思いながら。

(次号に続く)

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞

週刊朝日  2021年8月20‐27日号

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?