数年前には深夜の転倒が心配で警備安全保障会社と契約もしていた。両親が最後まで安全にこのわが家で暮らせるよう、自分でできることは全部やろうと思った。いつも前のめりだった。

 母の目となり、足となりたかった。しかし母は「来なくてよかったのに」といつも言った。

 それでも実家に帰れば、母は父とともに、玄関まで歩いて、「今日はありがとうね」と去り際に笑顔で見送ってくれる。こんな二人の姿を見られるのはいつまでだろうか。自転車をこぎ振り返りながら、実家を去る時はいつもそう思っていた。

 そんな不安が3年前のあの日以来、現実になってしまった。私は頻繁に実家に帰るようになり、介護が生活の大きなウェートを占めるようになった。振り返るとあの日が私が親の生活に本格介入するギリギリのタイミングだったかと思う。本連載を始めるにあたって、親の介護を始めるタイミングについて、介護アドバイザーで「元気がでる介護研究所」代表の高口光子さんに聞いてみた。

「親に対して『ちょっとお母さん、しっかりしてよ』という言葉を放つ回数が増えたら、そろそろ親を支える立場になったのだなと、心を構えてほしい」と話す。

「ただ心構えができたからといってよい支援者になれるとも限らない。大事なのは、しっかりしてよ、と言っているあなた自身が、そこからしっかりしていかなきゃいけないということ。子として親を引き受ける時が来た。いよいよ親子としての人間関係の立ち位置が変わる時がやってきたということを正しく自覚すること。よく『介護が突然やってきた』と言われる方がいらっしゃいますが、ちゃんと見ていれば、突然に介護はやってきません」

 ではいつ、「介入」したらいいのか。高口さんは「これまで親が特にこだわってきたことができていなかったり、トイレが異様に汚れていたり、親が頻回に電話してくるようになったりした時などが一つのサイン」という。ただそのサインはそれぞれで異なる。いずれにせよ、日ごろの観察力と、その時が来た時の距離感が大切という。

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