入居したホームで父が描いた絵手紙。この4日後、89歳になった

 この頃、夫とともに、父と母を外食に連れ出そうとしたある日、母以外の3人は玄関にいるのに母だけ脱衣所におり、なぜか棚を上から順に開けていたことがある。「もー、何してるの、早くー」。私が怒鳴ると母は小さくなって玄関にやってきた。

 それからしばらく経って両親とも老人ホームに入った後、実家の整理をした時、その棚の中には母が気に入っていたハンドタオルが並んでいたのを発見した。母はあの時これを捜していたのか。胸がきゅっと痛んだ。

 転倒事故の後、危険なほどにギリギリまで在宅生活を送り、両親はそろって特別養護老人ホームに入った。しかしサービス内容に疑問を感じ、そこは1年も経たずに退去する。そこからは私がさらに介護に時間を割いて、看護小規模多機能型居宅介護を使った在宅生活を1年ほど送る。それを経て、今夏に父は有料老人ホーム、母は介護老人保健施設に入居した。主たる介護者である私の時間的な都合や、予算、両親の心身の状況などが理由だ。「介護フルコース」ともいえる体験を経て、介護保険にも詳しくなった。受け身でいては恩恵が受けづらい。それが介護保険なのだ。前出の高口さんも言う。

「国民一人ひとりがいかに自らの人生を考え、主体性をもって介護保険を利用していけるのか。それが大切。介護保険があるから老後が幸せというのではなく、自分の描く幸せをカタチにするために介護保険を活用する、ととらえてほしい」

 介護保険について知らないでいるのはもったいない。ここから先は記者の経験に基づく「マル得情報」をまとめよう。

・マル得【1】住宅改修「2度受けられる場合も」

 居宅で生活する人に向けた介護保険サービスのひとつに「居宅介護住宅改修費(住宅改修)」がある。手すりをつけたり、段差の解消をしたり、扉を引き戸へ変えたりするものだ(適用される改修の種類は決まっており事前申請が必要)。改修費用は20万円を限度に7~9割が介護保険給付対象になる(20万円を超えればその分だけ自己負担になる)。原則1回のみ。

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