国際パラリンピック委員会(IPC)と交渉し、健常者と一緒に走った大会でも記録が公認されることになった。だが、ラオスには電動計測機がない。手動による計測は認められなかった。最終的に、出場する選手がいない場合に各国(地域)男女1人ずつが出場できる特別枠でケンが出場することになった。羽根さんは言う。

「選考会が開かれていれば2人を出場させる自信はありました。標準記録を突破できず参加できないのならあきらめもつきますが、その土俵にも立てなかった。ラオスから見ていると、パラリンピックは不公平です」

■義足の費用は年収以上

 選手強化の面でも経済的格差を感じる場面が多いという。羽根さんはこう語る。

「新品のスパイクは約2万円で、公務員の初任給でも足りない。スポーツ用義足は安いものでも30万円して、年収でも追いつかない。海外に遠征するのも費用の工面が難しい。途上国にとって、パラスポーツを続けるのはとても大変です」

 各競技の強豪国を見ると、経済格差がにじむ。国連によると、障害者の約80%が発展途上国に住んでいながら、車いすを使って実施される団体競技のバスケットボールやラグビーは先進国が名を連ねる。

 一方、床に尻をつけてプレーするシッティングバレーボールは違う。男子ではボスニア・ヘルツェゴビナとイランが00年シドニー大会から5大会連続して決勝で金メダルを争ってきた。女子も今大会、アフリカ中部のルワンダなど他の団体競技では見ない国が出場した。

「シッティングバレーは特別な機材が必要ないので、競技用車いすや義足などがなかなかそろわない途上国も互角に戦える」

 ルワンダのシッティングバレーチームの事前キャンプを沖縄で受け入れた際のつなぎ役となったNPO法人エンパワメント沖縄理事長の高嶺豊さん(73)はそう話す。

 シッティングバレーは、戦争で負傷した兵士のリハビリのために1956年に考案された。実際、海外のチームは戦争や内戦絡みで下肢に障害を負った選手が多い。例えばボスニア・ヘルツェゴビナは、激しい民族紛争の影響で障害を負った人たちの社会復帰のため、国がシッティングバレーを支援する。男子のエース、サフェト・アリバシッチ(38)も12歳のときに地雷を踏んで左足かかとを失った。

■疎外感を抱いた人も

 発展途上国は活躍できる競技が限られる。ただ、その中でも大会に出場する意義はあるという。高嶺さんはこう話す。

「途上国では障害者に対する強い偏見や差別がある国もありますが、パラリンピックで国外のアスリートの様子を知り、彼ら自身が変わり社会を変えていく。障害者スポーツにはそういう効果もあります」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2021年9月13日号より抜粋