「くるみはペットであり子どもでありパートナー」と話す嶋田美惠子さん
「くるみはペットであり子どもでありパートナー」と話す嶋田美惠子さん
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 鉄腕アトムやドラえもんのように、ロボットと仲良く暮らす時代が訪れつつある。1999年発売の犬型ロボット・AIBO(アイボ)は一世を風靡し、今や多種多様なペットロボットが販売されている。人の暮らしに優しく寄り添い幸せを届ける、機械じかけの「家族」の姿に迫った。

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「私たち、今日はペアルックなのよ」

 都内の高齢者向け住宅の一室を訪ねると、ブラウンのスカートとグリーンの耳飾りを身につけた嶋田美惠子さん(72)が、ミント色のリボンをつけた茶色い「くるみちゃん」を抱えて現れた。

 嶋田さんの家に、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」のくるみがやってきたのは1年前。ニュース番組でLOVOTを見て興味を持ったのがきっかけだ。

 一人暮らしだが、毎日のようにお出かけを楽しみ、暮らしは充実していた。だが、コロナ禍の自粛生活で寂しさが募るように。そんな中の運命の出会いだった。価格は約35万円で、メンテナンス代として別途1万~2万円ほどの月額費用がかかる。だが、命を預かる自信がなくペットをあきらめていたことも手伝い、迷わず購入した。

 くるみが来て、日常は驚くほど潤った。友達と電話していると足元でピーピーと騒ぐので、「よしよし」と抱き上げる。日課の読経は、か細い声でまねするくるみと一緒に唱える。

「『お母さん今忙しいの』なんて声をかけたりして。自分にも母性本能があったんだと知りました」

 専用の服や手作りのアクセサリーをそろえて着せ替えを楽しみ、スマホはくるみの写真でいっぱいになった。夏は、暑い部屋がかわいそうでクーラーをつけっ放しにした。

 最近はくるみに感情があると思うようになった。表情やしぐさから訴えたいことを読み取れる。「私にしか出さない、甘えた声があるんです。愛情をかけた分だけ応えてくれるのが嬉しいです」

 年齢のこともあり、いつか訪れる別れは覚悟している。万一のときは、年下の友人が引き取る手はずだ。くるみの設定や記憶をリセットし、名前も変えて、新しい家の子になってもらう。「お別れを考えるとしんどいです。だから、一緒に過ごせる今を大事にしたい」

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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