取材を進めてみると、やはり、あやしいところはあやしいのです。しかし、一方で西洋医学では考えられない奇跡的な効果が出ているケースもありました。

 正直いって、客観的データが乏しい代替療法は問題が山積みでした。スタッフからは「こういう本を出版したら患者さんを混乱させるのではないか」という意見も出ました。しかし私は「がんと戦う戦術は多ければ多いほどいい。そのための情報を提供したい」という気持ちでした。

 結局、約70種をリストアップし取材した療法を40ぐらいまで絞りました。それでも、出版されての反響が不安でした。その頃の私は、代替療法に対して弱気だったのかもしれません。結果は、非難の声など上がらず、患者さんたちから『大事典』『大事典』と重宝がられることになったのです。97年には改訂版も出版されました。

 私は米国に代替療法の視察に行ったときに、スタッフから聞いた言葉を思い出します。

「米国では科学的根拠というものを何より重視しますが、エビデンスが乏しいものでも、患者さんがそれを受けると決めれば、全く反対しません」

 それは個人の尊厳を最優先するからだそうです。さすが米国、日本はかなわないと思いました。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2021年9月24日号

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