無料引換券の意図は、おそらく新発売のお茶を売ること、そして翌週も購買者に戻ってきてもらうこと。コンビニはついで買いに支えられているとも聞いたことがありますから、きっとコンビニに人を呼び込むだけで売り上げが上がるのでしょう。私の場合、この店舗に翌週もやってきて何かを買うことはもう約束されている。新発売のお茶も買ったし、このキャンペーンの目的はすでに果たされているといえる。……と、店員さんがそこまで計算していたかはわかりませんが、全国チェーンのコンビニであるにもかかわらず、「まあ、子連れで苦労していそうないち客に翌週渡すはずのチョコレートを今週渡しても、店はつぶれないでしょ」ってな調子でサービスしてくれるのです。
あるいは、路上にて。松本市の車道には一時停車をしている車が目立ちます。足の悪いおばあちゃんを家の前まで送り届けたタクシーとか、店の前で荷物を積み下ろししているトラックとか、なんだかよくわからないけど停まっている乗用車とか。車道にはみ出して停めているので、後続車は通れません。でも誰もクラクションを押したりせずに、停車中のその車が動き出すか、または対向車が途切れて追い越せるまで辛抱強く待っています。待つのはほんの数秒。一時停車中の車にも事情があるのだろう、ま、いっか、なのです。
対して東京では、いつも「ちゃんとしなくちゃ」の重圧に押しつぶされそうでした。自転車に乗るときは左側通行、バスに乗るときはベビーカーをたたみ、各種予約は時間ぴったしに向かう。公道で一時駐車などありえない。いつもルールを守り、マナーをわきまえないと、と必死に過ごしていました。でも、小さい子どもとの暮らしでは「ちゃんと」できないことも多いです。
松本では、道端にある時計が遅れていたり、交通標識の文字がはがれていたり、お店が何のお知らせもなく臨時休業だったり、11月に入ってもハロウィンのお菓子が店頭に並んでいたりする。それでも、市民の生活は回っています。そのことに、こんなにも救われるのかと初めて気が付きました。子どもをのびのび育てるには、まず親である自分の気持ちに「ま、いっか」の余白が必要だったのです。
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