大西医師が住むマサチューセッツ州では、ハーバードの教育病院・マサチューセッツ総合病院(MGH)を擁する「マスジェネラルブリガム」が州最大の病院グループだ。昨年4月、ボストンに第1波が押し寄せた時に、コンベンションセンターを使用して約1千床の臨時病院を開設。ICU(集中治療室)ベッドも州全体で約1200床増やした。ICUでの治療から回復した患者は臨時病院で経過を見る。無症状者はホテルで健康観察するシステムが早期に確立した。

「マスジェネラルブリガムは長年のライバル関係にある他の病院グループと一致団結し、どこの病院に何人分のベッドが空いているかなど、お互いに情報を開示・共有し合いました。インターネットでも確認でき、患者さんがたらい回しされることはありません。救急車もすぐに搬送できるので、時間的なロスもありません。医療スタッフは定期的な検査など緊急性のない医療をやめて、コロナに集中しました。ワクチン接種が進んでから順次、元の診療科に戻りました」(大西医師)

情報を隠したら罰金100万ドル

 コロナ対策においてこうした画期的な取り組みが実現できたのは、オバマ政権が2016年に制定した「21世紀治療法」があるからだ。パンデミックなどの危機に備え、公衆衛生のために電子記録を作成する医療従事者や企業は、他の医師や事業者と情報を共有することが義務付けられた。情報のブロックは禁止され、違反した場合は最大100万ドルの罰金が科せられることがある。大西医師が解説する。

「患者さんの電子カルテも共有化が進み、コロナによってさらに加速しました。もちろん、プライバシーは法律によって保護されます。まず、かかりつけ医であるホームドクターに行き、必要であれば専門の病院にかかる。データはシェアされているので診療はスムーズに進みます。患者は自分の情報はすべてオンラインで知ることができ、セカンドオピニオンが必要かどうかも判断できます」

 日本でも医療情報の開示を導入すれば、閉塞したコロナ対策を打開する一助になるのではないか。(本誌・亀井洋志)

週刊朝日  2021年10月1日号

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