50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、2019年の小脳梗塞に続き、今度はうっ血性心不全の大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。人生の節目の70歳を超えたいま、天龍さんが伝えたいことは? 今回は「尊敬できる後輩」をテーマに、つれづれに明るく飄々と語ってもらいました。
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尊敬できる後輩と聞かれて、真っ先に思い浮かんだのは二所ノ関部屋の後輩、麒麟児だ。2021年の3月に亡くなってしまったね……。彼は俺の3歳下で、中学卒業と同時に入門してきた。親父さんは国鉄の駅長をやっていて、それなりに裕福な家の息子なのに、中学を出て相撲に来るんだからすごいことだよ。よほど相撲への思いが強かったんだね。毎日、こつこつと相撲のことに一生懸命に取り組んでいて、後に「花のニッパチ組」として脚光を浴びることになるんだけど、それは彼の日々の努力の賜物だ。
彼との一番の思い出は“押尾川騒動”。押尾川部屋で誰が跡目を継ぐのかモメている最中、女将さんが麒麟児を呼んで「押尾川部屋には行かないでね。部屋にダメージを与えないでね」とお願いしたんだけど、それを金剛が「麒麟児は今、女将さんから『うちの次女と結婚して部屋を持って』と言われているのかもしれない。態度がコロっと変わるかもな」なんて言っていたんだよ。それはお前だろう! まったく! そんな騒動も乗り越えて、初恋の年上のおネエちゃんと結婚して、相撲に精進している姿を見て「あぁ、麒麟児らしいな」と思ったよ。
俺がプロレスに転向するという報道が出た時は、周りのみんなが腫物のような扱いをして近づいて来ないのに、麒麟児だけが「天龍さん、プロレスに行くのやめて、もう一回相撲でがんばりましょうよ。プロレスラーにならなくてもいいじゃないですか」って、引き止めてくれたんだよ。あの状況で、兄弟子に対してなかなか言えることじゃない。勇気があるね。