そして、もうひとつの珍場面、コーチに本塁ベースの掃除を命じる事件は、87年6月28日の南海vs近鉄で起きた。

 南海は1回2死一塁、5番・デビッドが三振に倒れた直後、ストライク判定に納得せず、面当てに本塁ベースに土をかけると、攻守交替で一塁へと向かった。

 無礼な態度に怒った村田球審は、ベンチに引き揚げる藤原満一塁コーチが目の前を通ると、有無を言わさず刷毛を手渡した。「ごめんな。村田さん」と謝りながら、素直にベースを掃き清める藤原コーチ。人柄の良さが伝わってくるような場面でもある。

 常に毅然とした態度で、たとえ誤審でも自信満々で自らのジャッジを押し通した名物審判も96年限りで退職。これほど個性溢れる愛すべき審判はもう現れないかもしれない?(文・久保田龍雄)

●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
なかなか始められない”英語”学習。まずは形から入るのもアリ!?