当時の作品はモノクロだったが、南国の鮮やかなイメージがあったという。
「特に空の、暗いほど濃い青は、徳島名産の阿波藍(あわあい)の色と重なって、身に染みついている」
■甘い香りがするアダンの実
会場に入ると、目に飛び込んでくるのがまさに藍色の夕闇迫る海辺の風景。凪(な)いだ湖面のような海を背景に、曲がりくねった細い枝に鋭くとがった葉のついたアダンの木が写っている。
やわらかな朝日に照らされたアダンの浜辺の作品もある。
「このアダンは奄美大島の自然を描いた画家、田中一村のイメージで写しました。でも、アダンの林に分け入って撮るのは、けっこう危ない。気をつけないと、背中とかに葉が刺さります」
アダンの実は小ぶりのパイナップルのよう。ストロボの光で写した実は鮮やかなオレンジ色をしていて、なかなかインパクトがある。
「すごく甘い香りがするんですよ。この実はヤシガニの好物で、高校や大学生のころ、よく島のにいちゃんたちといっしょにヤシガニ捕りに行きました。捕ったのをゆでて食べる」
奄美、沖縄の海岸にはサンゴが化石化した琉球石灰岩が広く分布している。それが波や雨に削られ、独特のごつごつとした岩場の風景を生み出している。
「これは徳之島のめがね岩」。昨年、撮影したという岩にはぽっかりと2つの穴が開いている。
「穴の直径は5メートルくらい。ここまでスケールの大きな地形は珍しい。以前からどんなところか行ってみたいな、と思っていたんですけれど、想像以上に岩に開いた穴が大きくて、自然の造形に驚いた」
穴の奥には白波の立つ海が見え、空にはダイナミックな雲が流れている。
■釣り人と似た意識
荒々しい岩場の海岸とは対照的なのが、湿地帯のような石垣島の海辺の写真。タコの足のような根を持つマングローブが密集している。
「歩いて行けるような場所ではないので、カヌーをこいで撮りに行きました。距離にしたら1、2キロ。しかも、大潮で潮が満ちたときじゃないとここまで行けない。で、パパっと撮る。潮が引いたら、もう帰れない」
撮影場所で満潮となるように、朝、暗いうちに出発し、日が少し昇ったところでシャッターを切った。画面からはすがすがしい朝の空気感が伝わってくる。
「でも、木々の間から太陽がちょろっと出たくらいのときに撮っているので、実際にはかなり暗いんです。浅い水の中に三脚を立て、葉の間からにじんだ光が画面いっぱいにあふれるイメージで、スローシャッターで写しました」