アイリーン:美波さんは撮影前は水俣病についてどう考えていましたか。

美波:学校で習ったことくらいしか知りませんでした。映画に参加して、水俣の問題だけに限らず、声を上げるべきことには声を上げていかなくてはいけないという自覚がすごく強くなりました。見て見ぬふりをしていたり、意識にふたをしていたり。自分の中で冷たかったマグマがふつふつと湧き出てきている感覚がすごくあります。世の中はものすごいスピードで変わっているので、今まで通りのやり方や固定観念は捨て、私たちがどんどんアップデートしていかないといけない。私にできることは何だろうと、すごく考えるようになりました。

■もっと良い世の中に

アイリーン:美波さんが言ってくださったように、映画を見た人がワクワクして「今のままでは違うのでは」とか「何か自分もしたくなってしまった」とか、心が動いてくれること、それが私の願いです。この映画はドキュメンタリー映像なども出てきますし、ユージンと私の写真集や実際の出来事に基づいています。見る人が実際の人物たちや起こった出来事について知りたいという思いに辿り着いてくれたら、うれしいです。

美波:私にとってこの映画は人生の大きな宝物になりました。俳優として飛躍する大きなきっかけになりましたし、環境問題に対する意識も変わりました。日本で起こった出来事を米国が映画という形にし、メッセージとして世界に向けて伝えてくれたことにもすごく感動しています。日本人でないからこそ、描けたものもあると思います。

 水俣病は日本での出来事ですが、世界中の人々が国を超えて共通して話せるテーマがあります。もともとレヴィタス監督は、水俣病は日本だけの出来事ではないという意識で映画を作ったと思うんです。エンディングで、世界各地で起こっている汚染や公害の写真が出てくるのも、この映画を見て湧いたエネルギーが世界中の人々と共有しやすいからだと思います。見終われば自ずと「みんなが幸せに生きる世界とは?」と考えるはず。だからといって、説教くさくはない。この作品に参加できたことをとても誇りに思っています。

アイリーン:水俣病関連の裁判は現在、いくつも続いています。ひどく汚染された環境の中で胎児・乳幼児期を過ごし、今も行政から被害を認められていない人たちが数多くいます。国は汚染された魚介類を摂取した全ての人たちを網羅する疫学調査を、この65年間1回も実施していない。今も「調査方法について考えさせてくれ」と言ってずるずると引きのばしています。この映画は「こんなひどい話はない。もっと良い世の中にしようよ」と、みんなが気づく大きなチャンスではないかと思っています。

(構成/フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年10月4日号

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