だが、「ニュース映像でがれきの山を見ているとき、直すことならできる、と“直すこと”で参加しました。そのときでした、世の中の役に立てるかもしれないと思ったのは。未来に光が差し込んだ気持ちがしました」。
持永さんの心に今も残る修理体験がある。
あるとき、30歳前後の女性から「いい仕上げでお願いします」と湯飲み茶碗を託された。丁寧に修繕して届けるとお礼のメールが来た。その茶碗は、若くして亡くなった兄が使っていた湯飲みだったが、葬式の日に割れてしまい、母は大泣き。そんな母を慰めるために持永さんを頼ったという。
<きれいに修繕された器を見て涙が出た。お兄ちゃんのことも誰かが直してくれたらいいのに>
メールにそう書かれていた。
「一つひとつの器の裏に、そんな物語があるのかもしれないと考えると、大事なものをお預かりしていると実感します」
その一方で、世の中には器が多すぎると思う。大量生産され、ワゴンセールや売れ残り品として安く売られていると考えると、胸が痛むと言う。
そんな心情を吐露してくれた持永さんは、最後にこう口にした。
「ときには修理代のほうが買うより高くつくこともある。直るまで1年かかることもあります。そこまでして直したいというお客様の次の一歩を踏み出すお手伝いができればという思いで、心を込めて修理しています」
「杜の都なつみクリニック」(東京都千代田区)はぬいぐるみの病院だ。修理を必要とするぬいぐるみを「患者」、依頼主を「保護者」と呼ぶ。修理は「治療」で「入院」はお預かりを意味する。「院長」の箱崎菜摘美(なつみ)さんは洋裁の専門学校を卒業した後、生地メーカーで主に婦人服やカーテン生地の直しを担当した。ぬいぐるみの修理は、そこで経験していた。
「修理してお返しする際に、品物がぬいぐるみだとお客様の反応が違うんです。みなさん、わが子が退院したときのように“頑張ったね~”と話しかけてうれしそうに受け取るんです。ぬいぐるみの治療は人に喜んでもらえる仕事だと思いました」