靴修理大好き工房の中田さん
靴修理大好き工房の中田さん

 地元の仙台で独立し、クリニックを開業。メディア出演がきっかけで全国から患者が集まるようになり、保護者の便を考え東京に進出した。

 コロナの影響で一時、入院患者が減ったが、今ではスタッフ全員で診察できる上限いっぱいの月100体の患者を受け入れている。先々まで予約でいっぱいで、これから申し込むと「診察」は来年の7月ごろになるという。

 汚れなどで目が白濁していれば、磨いて傷を取る「レーシック治療」、同じ素材の糸を一針ずつ縫い込む「植毛」、全身のシミやくすみを取り除く「お風呂エステ」など、あらゆる症状に対応している。

「おばあちゃんの手作りだったり、生まれたときから一緒に過ごしたぬいぐるみは家族であり恋人であり、自分の分身であり、代わりがいない。治療に当たっては、その子らしさを損なわないようにしています」

 救急治療も受け付けているが、丁寧に治療するため、大半の患者は軽症でも1カ月、重症だと2カ月近い入院が必要になるという。

「他店では修理を断られることが多い靴底の全交換はウチの得意ジャンル」と言う
「他店では修理を断られることが多い靴底の全交換はウチの得意ジャンル」と言う

 その名も「靴修理大好き工房」(埼玉県川口市)を運営する代表の中田好紀さんは履物メーカー(本底加工・修理)の3代目。本底づくりに特化してバブル期にはゴルフシューズ需要で潤ったものの、崩壊後は赤字続きだった会社を17年前に父親から引き継いだ。

 大学を卒業後に就職したが、靴修理に魅力を感じて登山靴の修理を始めた。その後、ビジネスシューズなど靴全般に事業を広げ、会社を軌道に乗せた。

「もともと靴業界は業績が悪かったうえ、コロナで外出が減って売り上げは落ちました。ですが去年ごろからリユースが注目され、現在は手いっぱいの状態です。作業所内に今も500足くらいの修理待ちがあります」

 登山靴は高価なため、靴底がすり減ったからといって簡単には買い替えられない。数万円かかっても修理して使い続けるのが登山者の間で常識だという。メーカーから、一般客から、自然と修理の依頼が増えていった。

「古くても断捨離をせず、手入れをすれば使えるようになる。しかもエコです。修理して大事に使ってもらう仕事、これから伸びていくんじゃないですか」

 中田さんは力強くそう言った。

 作家の五木寛之さん(90)は今年1月に出版した『捨てない生きかた』(マガジンハウス新書)のまえがきで、イタリアのデザイナー、G・アルマーニの発言を引いてこう書いている。

<大量に衣服を買い込んで短期間だけ着て捨ててしまう時代ではない、という意見にはぼくも賛成です>

 そして、こう述べる。

<「捨てない生きかた」も悪くない>

 修活の時代が始まっている。(本誌・鈴木裕也)

週刊朝日  2022年11月25日号

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