「質のいいものを捨てるのはもったいない」と話す伊藤鞄製作所の渡邉さん(左)と修理の様子
「質のいいものを捨てるのはもったいない」と話す伊藤鞄製作所の渡邉さん(左)と修理の様子

 その名のとおり、同社はカバンの企画生産・販売をする会社として1960年にスタートした。職人が丹精込めた製品のアフターケアも重視していたところ、次第に修理の依頼が増えたため、自社ブランド以外の修理も請け負う専門の部署を設けて今日に至っている。

 目下の一番人気はランドセルのリメイクだ。

「リメイク後の完成モデルを名刺入れや財布、キーホルダーなどに絞り込んでいるので、求めやすい価格でできるのがウリです」と渡邉さんは言う。

 大学を卒業して社会人になる息子へ、小学校の6年間で使ったランドセルを名刺入れと財布にしてプレゼントしたい。入学時にランドセルを買ってくれた祖父母に、リメイクして作ったキーホルダーを贈りたい。そんな要望が引きもきらない。

「修理やリメイクでよみがえったカバンを受け取ったとき、お客様はものすごくうれしそうな顔をしてくれる。思い出を引き継ぎ、ゴミを減らすことにも貢献できるエコ。やりがいがあります」

 そう話す渡邉さんの顔もうれしそうだった。

 破損した陶器を漆で修繕し、金や銀で装飾する伝統技術「金継ぎ」で、器や美術品の修繕を手がける「モノ継ぎ」の持永かおりさん。接着面が固まるまで、早くても1カ月。わずかな隙間もないように漆を塗る作業を繰り返すゆえ、年に約300個が一人で請け負える限界だという。

 美大で陶芸を学んだが、器は専門ではない。ガラス工芸を学び、割れたガラス片を組み合わせてアート作品を作っていた。そんな持永さんが金継ぎを始めたのは、陶芸家の友人に作ってもらい、大事にしていた茶碗を割ってしまったから。

「どうしても捨てることができず、漆を使った金継ぎのテキストを取り寄せ、独学で修繕したのが始まりです」。漆を使った伝統技法を学んだのは、口をつけて使う茶碗に合成接着剤を使いたくなかったからだ。

 その後も友人や知人の器を直すなど金継ぎは続けていた。そんな折、東日本大震災が起きる。美術家の友人から、作品の売り上げを復興支援として寄付したいからと出品を依頼されたが、当時の持永さんは作品を作っておらず、一度は参加を見送った。

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