高市早苗政調会長を支援した安倍元首相(C)朝日新聞社
高市早苗政調会長を支援した安倍元首相(C)朝日新聞社

 実際、総裁選が進むと安倍氏は中堅・若手議員に対して電話攻勢をかけるなど、高市氏を猛烈にサポートした。だが、高市氏が2位につけ河野氏と決選投票になれば、岸田派議員はタカ派のイメージが強い高市氏に投票しないかもしれない。河野総裁誕生を阻むために、安倍氏は土壇場で翻意し、岸田支持に切り替えざるを得なかった。

「安倍氏の影響力の限界もそこに表れていた。岸田氏は今回、非常に強い勝ち方をして総裁の座を得たのだから自分の思うような人事もできたはず。それをやらないのですから、政治家としてやりたいことがないということでしょう。それが岸田氏の最も欠落している部分です」(白井氏)

 こうした厳しい見方がある一方、今回の人事に「安倍外し」の“深謀”が隠されているとの指摘もある。その象徴が、安倍氏の「イチ推し」だった高市氏の処遇だ。高市陣営関係者が言う。

「高市さんは安倍政権で総務大臣を経験し、今回の総裁選はそれ以上のポストを目指すための出馬だった。その結果が、過去にも経験したことのある政調会長。安倍さんは、幹事長就任を希望していたそうですが……」

 総裁選で高市氏を支持した議員で、党五役はゼロ。内閣の重要閣僚である官房長官、財務相、外相への就任もない。

 官房長官人事にも注目したい。当初、安倍氏の最側近である萩生田光一氏(細田派)の就任が有力視されていたが、党内から異論が出て直前でひっくり返り、細田派事務総長の松野博一氏に決定した。岸田氏を支援した自民党議員は「萩生田さんは、安倍さんに近すぎる。松野さんは親分がいないから」と説明する。

「派閥の論理」として、党内最大派閥である細田派の意向を無視した政権運営はできない。だが、よく見ると安倍氏の影響が強い議員は巧妙に外されているのだ。

 たとえば、総務会長に抜擢された福田達夫氏(細田派)は、安倍・菅政権の強引な政権運営を批判して結成された派閥横断の若手議員グループ「党風一新の会」の代表世話人。祖父、父が首相経験者という“政界のプリンス”だ。当選回数3回だが、すでに年齢は54歳。60歳の高市氏と今後は次のリーダーの座を競い合うことになる。

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政官界にネットワークを持つ開成OB組織「永霞会」