今年も凱旋門賞が終了。日本に縁のある馬たちが振るわなかったことやドイツ馬の優勝など語るべきポイントはいくつもあったが、ここでは視点を少しずらしてクロノジェネシスのオイシン・マーフィー騎手が選択した序盤の騎乗に注目してみた。
15頭立ての14番ゲートという外寄りの枠だったクロノジェネシス。セオリーならばスタート直後から内寄りに進路を取って馬群に入るのだが、マーフィー騎手はしばらく内の馬群から大きく離れたコースの外側でクロノジェネシスを走らせた。
これは海外競馬に詳しい人ならばすぐにピンとくる作戦で、マーフィー騎手もレース後に語っていたように2015年の凱旋門賞をゴールデンホーンで制したランフランコ・デットーリ騎手が見せた神騎乗の再現を狙ったものだった。この凱旋門賞はまさにデットーリ・マジック炸裂といったレースなので、興味のある方はぜひ映像を確認してみてほしい。
さて、前置きが長くなってしまったが、今回は騎手の好騎乗が光ったレースをいくつか紹介していこうと思う。とはいえとても全てに言及はできないので、筆者の独断と偏見によるピックアップとなることをご了承いただけると幸いだ。
まずは日本を代表する名ジョッキーである武豊騎手の神騎乗から。武騎手ひとりを取っても語りつくせないほど紹介したいレースはある。例えばデビュー3年目の1989年に当時は大外枠が絶対不利とされていた阪神マイルで出遅れながら勝利したシャダイカグラの桜花賞。まったく無駄のない騎乗でオグリキャップの奇跡の復活を演出した1990年の有馬記念など、武騎手は若い頃から天才的な騎乗を見せてきた。
比較的最近のレースで印象的だったのは、2017年の天皇賞(秋)。先行馬のキタサンブラックが不良馬場で出遅れという致命的な状況から、他馬が避けていた荒れた内寄りの馬場をあえて選ぶことで徐々にポジションを上げていき、ロスのないコーナリングで直線に入るとすぐに先頭に立っていた。こうなってしまっては今度は切れ味勝負のライバルたちが不良馬場に脚を取られる番。ピンチをチャンスに変えてスタミナ豊富なキタサンブラックを勝利に導いた。