この「内を突いて気が付いたら先頭に」で最近の競馬ファンがまず連想するのはゴールドシップだろうか。「ゴルシワープ」とも称され、人気ゲーム『ウマ娘』のアニメのオープニングにも描かれた2012年の皐月賞での内田博幸騎手の神騎乗だ。
この日の中山競馬場は不良から稍重まで回復したとはいえ水分を多く含んだ馬場。当日のレースでは逃げ馬でさえ4コーナーでは荒れた内側ではなく馬場の中央を通るほどだった。この「内は避けるべき」という騎手たちの共通認識が皐月賞の勝敗を分けるフラグとなる。
前2頭が飛ばす縦長の展開で最後方に控えたゴールドシップは、残り800メートル付近からぽっかりと空いた内ラチ沿いをロングスパート。前述のように他馬は4コーナーで外を通る分だけ距離損が生じ、荒れ馬場をものともしなかったゴールドシップは直線に入った時点でなんと3番手までポジションを上げていた。さらに脚を伸ばしたゴールドシップは懸命に追い上げたワールドエース以下を2馬身以上引き離す会心の勝利を手にしたのだった。
ウマ娘のオープニングつながりでもうひとつ紹介しよう。武騎手の絶妙な手綱さばきが光った2009年の安田記念だ。圧倒的な1番人気に推され、前年からの連覇を狙っていたウオッカだったが、18頭立ての3番枠だったこともあって馬群に包まれる位置取りとなり、直線では完全に前が壁になる絶体絶命の状況に。
しかし武騎手は慌てることなくギリギリまで仕掛けを待ち、前を行くアルマダの外にわずかな隙間を見つけるとそこにウオッカを誘導してスパート。さらに先頭に抜け出していたディープスカイが進路上にいると見るや、細かくウオッカを軌道修正して外から並びかけられるような位置へ。これで完全に進路を確保すると、後は自慢の末脚を炸裂させるだけだった。
一瞬の判断で明暗が分かれるレースで馬群を縫いながらウオッカの持ち味を存分に発揮させたのは、さすがは武騎手。個人的にはゴールドシップといいウオッカといい、実際のレースをアニメに落とし込んで再現した製作スタッフにも称賛の拍手を送りたい。