歯朶山さんのケアをするハレの小渕さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
歯朶山さんのケアをするハレの小渕さん (撮影/写真部・戸嶋日菜乃)
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 その願い、かなえます──。終末期の患者にとって外出はリスクにもなる。でも、娘のウェディング姿が見たい、温泉に入りたいといった希望を持つ人もいる。そんな思いを実現するための訪問看護サービスがある。その名も「かなえるナース」。

【写真】バージンロードを娘と歩く末期がんの歯朶山さん

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 7月のとある午後、一台の介護タクシーが横浜市内の結婚式場に到着した。介助する看護師に付き添われ車いすで降りてきたのは、礼服を着た歯朶山(しだやま)孝男さん(63)。

「お父さん、ありがとう」

 そう言って傘を差し出し、歯朶山さんを出迎えたのは、ウェディングドレス姿の三女、上野美佳さん(25)。この日、身内だけで小さな結婚式を挙げる。

 歯朶山さんは進行した肺がんを患い、脳への転移も確認されている。積極的な治療をする段階は過ぎ、現在は神奈川県内のホスピスで療養する。

 歯朶山さんのひざの上には、1カ月前に白血病で急逝した妻みどりさん(享年60)の遺影が置かれている。式は「母の望みだったんです」と、美佳さんの姉は話す。

 この結婚式をサポートし、医療的なケアが必要な歯朶山さんの介助をバックアップしたのが、看護師による新しい訪問看護サービス「かなえるナース」を手がける株式会社ハレ(東京都港区)だ。

 代表取締役で看護師でもある前田和哉さん(35)に、結婚式の依頼があったのは式の1週間前だった。そこから何度か打ち合わせをし、ドレスやブーケ、ウェディングフォトに加え、患者が利用する革製の車いす、介護タクシーの手配などの準備を整えた。

 前田さんらが聞いた主治医の話では、末期がんの歯朶山さんの脳は腫瘍(しゅよう)で圧迫されている可能性が高く、意識がない日が何日かあったという。

「看護師の目からみても外出が許可されるかどうか、微妙な状態でした。ところが、美佳さんの挙式の話が具体的になると、歯朶山さんの容体が徐々によいほうに変わってきたのです」(前田さん)

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