小渕さんは、大学病院や美容外科のプライベートクリニックなどを経て、沖縄の市民病院に派遣看護師として赴いた。そこで知り合った関係者を通じてハレに入社した。

「終末期の患者さんの願いをかなえるサービスをビジネスでやっていると聞いて、しっかり働きたいと思いました。ボランティア活動だったらやっていなかったかもしれません」(小渕さん)

 収入は美容外科に勤めていたころとは比べものにならないほど大きく減った。だが、それに勝る経験を得ているという。何より代えがたいのは、病棟に勤務していたころのように雑務に追われ、患者といる時間が取れないということがない、という点。一日の依頼であれば24時間、つきっきりでみることができる。

 とはいえ、主治医の同意を得て、事前に必要な医療ケアについて打ち合わせをしていても、終末期の患者を外出させるのは大きなリスクだ。しかも自分の経験と技術だけが頼りだ。小渕さんは「医療機関で働いているときより責任は重い。緊張感も何倍も強いです」とも言う。

「でも、ある患者さんが言ったんです。『生きていると、こんな良いことがあるのね』って。こういう言葉をいただくと、どんなにたいへんなことも忘れちゃいます」(同)

 ハレは4年目を迎えたが、この事業を継続するための課題は少なくない。その一つは、こうした取り組みがまだ多くの人に知られていないことだ。

 前田さんは潜在的なニーズはあると考える一方で、「終末期という重要な時期に患者さんをお預かりする。次から次へとご依頼を受けるような性質の事業ではない」とも話す。

 二つめは主治医の理解だ。依頼があっても実際に請け負えるのはごく一部。断念する理由の多くは患者の体調の急変だが、主治医が反対するケースもある。家族が希望を伝えても、主治医が「そうですねぇ……」と首をかしげた段階であきらめてしまうという。

 しかし、終末期の患者の思いをかなえることは、残された家族の精神的な安定にもつながる。

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