映像で投手のリズムを感じ、試合でそれを確認。これを繰り返すことでスタートのタイミングは俄然、スムーズになっていった。初対戦のピッチャーに対しては情報を得るため、わざと牽制球を何球か投げさせることも実行した。

「一塁と二塁を結ぶ線上よりほんの少しライト側、つまり投手より遠い位置でリードを取ると牽制球が多くなる。逆にできるだけ投手に近い位置でリードを取ると牽制球はあんまり来ない。投手からすると目の錯覚ちゅうやつですね。投手から遠い位置だと大きなリードに見える。こういうリードも利用してね」

 面白いように盗塁を決めていく福本に対し、ライバルチームもあの手この手で応戦した。ロッテはホームスタジアムの一塁ベースと二塁ベース付近にたっぷりと水を含んだ土を投入し、福本が走りづらくなるよう砂場にも似た地点を作った。あるいは野村克也監督率いる南海はこんな対策も編み出した。一塁牽制時に一塁手が捕球せず、塁上の福本の足に当て、ダメージを負わせるというダーティな作戦だ。

「砂場はね、走る位置を少しずらして対応しました。ボール当てられた時は、まあ『痛っ』ちゅうくらいでそのまま走りましたわ(笑)。汚いなあと思ってましたけど、まあそれがプロやと。だから気にせず僕は走りましたよ、それでもね。南海が始めたクイックモーションには最初、手こずりましたけど、見てるうちにクイックなりのリズムが分かってきてね。クイックちゅうのは、腰、クッと下げてそこでポッと行くねん。足上げへん。体重かけてガッとするやろ。そしたら、こうカッと足動かすんやけど、ちっさい動きで。最後はグチャッといってな?」

■ライバルたちとの熾烈な駆け引き

 達人ならではの表現でクイックモーションの動きを語った福本。ふと思い出したようにライバルチームのエースについて感心したように言葉を続けた。

「僕がそうやってクイックを盗んでいくでしょう。そうするとエースピッチャーは必ず修正してくるの。兆治(村田兆治)なんかはあの投げ方でしょ? 最初はカモにしとったけど、直して、直して、走りづらいよう工夫してきよる。鈴木も東尾(修)もそう。さすがエースやという感じですわ。中でも一番は巨人の堀(堀内恒夫)ね。牽制自体はどうってことなかったんやけど、クイックのリズムを一球一球変えるとか、僕を一塁に釘付けにする技術を持っとった。小さく、早く、身体開いたまんまで投球しよる。そんなピッチャー他にいないわね。大抵、どんなピッチャーでも走りましたけど、堀は一番。やられたと思うた唯一のピッチャーでしたわ」

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