政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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岸田文雄首相の所信表明でより明確になったのは、ハト派とタカ派の二面性です。幹事長に甘利明氏を据えたことからも、岸田氏と同じ宏池会と連なる麻生太郎氏におんぶに抱っこはできなかったことがわかります。
かといって安倍晋三氏におんぶに抱っこだと、もっと反動が起こります。ただ、甘利氏にはカネの問題がまとわり付き、それが足かせになるリスクを抱えたままです。
そうした過去のしがらみをリセットする印象を出すためにも、「新しい資本主義」をはじめ、「新しい」という形容詞を多用している。中間層へのアピールや成長と分配の好循環、医療や介護従事者への待遇改善など、アベノミクスとの違いを印象づけ、リベラル保守の宏池会らしさを出したいのでしょう。でも曖昧(あいまい)さは否めず、安倍亜流政権のイメージがつきまといます。
ここに岸田政権の曖昧さがあります。特に経済政策では、宏池会らしく、所得再配分による格差の是正に政策的な資源を投入しようとするはずです。その場合、財源の捻出、財政出動や金融所得課税などの問題を巡り、財務省やその背後にいる麻生氏との不協和音に悩まされるかもしれません。