藤井聡太三冠が、竜王戦七番勝負第1局で豊島将之竜王に勝利した。将棋界の「四強」の一人となっている藤井だが、竜王を持つ豊島は格上。これを奪取し「藤井時代」の実現なるかが注目されている。AERA 2021年10月25日号で取り上げた。
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「藤井君が全部大楽勝だと、面白くもなんともない。世の中の人がいま求めているのは、藤井君が強い相手にスレスレで逆転勝ちしたりするところでしょう」
今年度が始まる前、渡辺明名人(37)は本誌インタビューでそう語っていた。若きスーパーヒーローが年齢も格も上の王者に苦戦しながら、最後は鮮やかな逆転劇を演じる。世間が求める王道のストーリーがそうだとするならば、藤井聡太三冠(19)が豊島将之竜王(31)を破った竜王戦七番勝負第1局(10月8、9日)は、まさにその筋書きどおりだった。
まずは現在の将棋界の状況を整理しておこう。史上空前の勢いで勝ち続ける藤井は今年度ここまで、棋聖戦で渡辺、王位戦で豊島という最強の2人を挑戦者に迎えるも、返り討ちにして二冠を堅持。さらに叡王戦で豊島に挑戦し、叡王位を奪取。藤井は将棋界8大タイトルのうち三つを保持するに至った。
そして藤井は竜王戦でも豊島に挑戦。もし竜王位奪取ともなれば、史上最年少四冠となる。
現在の将棋界は席次上位から順に渡辺名人(棋王・王将)、豊島竜王、藤井三冠、永瀬拓矢王座(29)と並び、この4人が「四強」と称される。8大タイトルの中でも名人と竜王は別格で、三冠を保持する藤井よりも渡辺、豊島は依然格上だ。
■竜王戦ドリームが可能
将棋界では実力さえあれば、誰もが頂点に立てる。その制度趣旨のもとに1935年に生まれたのが名人戦である。戦後、ピラミッド構造の順位戦が整備されると、名人戦はその上に位置づけられた。プロとなり、順位戦で勝てば名人位に近づく。しかしそれでも最短5年を経ないと挑戦はできない。その道程の困難さが名人戦の伝統と格式を育んできた面もある。名人に挑戦するには定員10人のA級で優勝しなければならないが、史上最高の勢いで勝ち続ける藤井でさえも、順位戦のクラスはまだ、A級の下のB級1組だ。