◆主体的に考える力を引き出す

森内:それはすごい数字ですね。将棋の世界も「見て楽しむ」人が増えています。棋士が何を食べているのかなど、競技とは別の興味の持ち方もされている。「こうでなきゃいけない」という時代から変化して、ファンを増やせているのかなと思います。クイズって年配のファンも多いですよね。

伊沢:そうなんです。「東大王」に出演すると年配の方からたくさんファンレターをいただくんです。画面を通じて知識を試し、僕と勝負してくださっているんですね。

森内:それは嬉しいですね。

伊沢:クイズは自分の興味の範囲外のことに目を向けさせてくれたり、普段意識もしないようなことを思い出させたりしてくれる。「そういえば昔、こんなことあったな」とか。情報を聞くだけでなく問いかけが見ている側にも向けられるので、自分自身が主体になって物事を思い出さなければいけなくなる。

森内:たしかに。

伊沢:やり方によっては相手をプレッシャーにさらしてしまうので加減は難しいのですが、それでもクイズは主体的に考える力を引き出し、好奇心をかき立てるものだと思います。でもクイズをやっていると「何のためにやっているの?」と聞かれることも多いんです。将棋の世界で、例えば藤井聡太棋士に「将棋は何の役に立つのですか?」なんて誰も聞かないですよね。

森内:そうですね。

伊沢:いまは学問の世界すら「どう世の中の役に立つんだ」「どうお金を生み出すんだ」ばかりが重視される。そのなかで研究や研鑽に意義が見いだされている将棋の文化や世界は本当に羨ましい。クイズ界もそうなれるようにと目指しています。

森内:伊沢さんのこのご本はきっとその一歩になりますね。クイズは将棋と違ってルールを知らなくても誰でも参加できる。いろんな人とコミュニケーションが取れることも大きな魅力ですから。

(構成/ライター・中村千晶)

森内俊之(もりうち・としゆき)/1970年、神奈川県生まれ。将棋棋士。九段。将棋タイトル獲得記録歴代8位。クイズ好きで知られ、2005年「パネルクイズアタック25」記念大会で優勝。「平成教育委員会」「クイズ$ミリオネア」などにも出演。クイズ強豪が名を連ねる「ホノルルクラブ」の会員でもある。

伊沢拓司(いざわ・たくし)/1994年、埼玉県生まれ。東京大学経済学部卒。中学時代にクイズ研究部に所属。「全国高等学校クイズ選手権」優勝などを経て2017年に「東大王」第1回で優勝。16年にウェブメディア「QuizKnock」を立ち上げ、19年から(株)QuizKnock CEO。著書に『クイズ思考の解体』。

週刊朝日  2021年11月5日号

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